目次
/
全短歌(歌集等)
/
不文の掟
春の疾風
訪ね来て
丘の上の
杉の秀の
凍死者を
持ち歩む
指組める
どんな時に
方形に
大理石の
雪の夜の
送られて
三椏の
はばたきて
00694
訪ね来て児らと遊ばぬかといふ便り分教場は雪にうづもれてゐむ
タズネキテ コラトアソバヌカト イフタヨリ ブンキョウジョウハユキニ ウヅモレテヰム
『不文の掟』(四季書房 1960) p.90
【初出】
『形成』 1957.3 冬土 (8)
00695
丘の上の木立が透かす雪の尾根日々に恋ひつつ斑雪をわたる
オカノウエノ コダチガスカス ユキノオネ ヒビニコヒツツ ハダレヲワタル
『不文の掟』(四季書房 1960) p.90
【初出】
『形成』 1958.5 春信 (1)
00696
杉の秀の風に揉まるる見つつ来てふふめるここの梅はしづけし
スギノホノ カゼニモマルル ミツツキテ フフメルココノ ウメハシヅケシ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.91
【初出】
『形成』 1958.4 春寒 (1)
00697
凍死者を告ぐる録音山腹の夜の吹雪をうつつに聴かす
トウシシャヲ ツグルロクオン サンプクノ ヨルノフブキヲ ウツツニキカス
『不文の掟』(四季書房 1960) p.91
【初出】
『形成』 1958.3 冬の季語 (5)
00698
持ち歩む帳簿の重さみづからの首尾ととのふる性をうとむや
モチアユム チョウボノオモサ ミヅカラノ シュビトトノフル サガヲウトムヤ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.91
【初出】
『形成』 1958.7 夜景 (4)
00699
指組める塑像の胸の隈深し執して思ふことにあらねど
ユビクメル ソゾウノムネノ クマフカシ シフシテオモフ コトニアラネド
『不文の掟』(四季書房 1960) p.92
【初出】
『短歌研究』 1958.1 夕占 (11)
00700
どんな時に縫ひものなどをするわれか知りゐむ母のたちゐと思ふ
ドンナトキニ ヌヒモノナドヲ スルワレカ シリヰムハハノ タチヰトオモフ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.92
【初出】
『形成』 1957.2 剥落 (8)
00701
方形に裁ちし小布をつぎつぎにつなぎつつ繻子の緋いろ紛れず
ホウケイニ タチシコギレヲ ツギツギニ ツナギツツシュスノ ヒイロマギレズ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.92
【初出】
『形成』 1958.5 春信 (7)
00702
大理石の古時計いつのまにかまた母は出し来て枕べに置く
ダイリセキノ フルドケイイツノ マニカマタ ハハワダシキテ マクラベニオク
『不文の掟』(四季書房 1960) p.93
【初出】
『形成』 1957.8 古時計 (5)
00703
雪の夜の更けて寂しも遠くよりわが名呼びて近づく声はあらずや
ユキノヨノ フケテサミシモ トオクヨリ ワガナヨビテチカヅク コエハアラズヤ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.93
【初出】
『形成』 1956.4 遠景 (8)
00704
送られて帰りし記憶寂しきにいつまでも道に斑雪は残る
オクラレテ カエリシキオク サミシキニ イツマデモミチニ ハダレハノコル
『不文の掟』(四季書房 1960) p.93
【初出】
『形成』 1956.4 遠景 (12)
00705
三椏の花咲きあぐる夜の疾風一重の窓にへだてがたしも
ミツマタノ ハナサキアグル ヨノハヤチ ヒトエノマドニ ヘダテガタシモ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.94
【初出】
『形成』 1958.6 灯かげ (1)
00706
はばたきて降り来しは壁のモザイクの鳩なりしかば愕きて醒む
ハバタキテ オリコシハカベノ モザイクノ ハトナリシカバ オドロキテサム
『不文の掟』(四季書房 1960) p.94
【初出】
『形成』 1958.4 春寒 (3)