浅春抄


00707
事務室の窓に葉蘭の鉢を置き異動期まへのしづけき幾日
ジムシツノ マドニハランノ ハチヲオキ イドウキマヘノ シヅケキイクヒ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.95
【初出】 『形成』 1959.3 季冬のころ (7)


00708
日給を取るやうになりて明るき少年自転車借りに来て話しかく
ニッキュウヲ トルヤウニナリテ アカルキショウネン ジテンシャカリニ キテハナシカク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.95
【初出】 『形成』 1956.1 湖心 (4)


00709
呼び交はし夜の街に出づ結論を明日に持ち越すこともたのしく
ヨビカハシ ヨノマチニイヅ ケツロンヲ アスニモチコス コトモタノシク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.96
【初出】 『形成』 1959.3 季冬のころ (5)


00710
ニコチンの害など説きてさりげなき人より奪ひたき言葉あり
ニコチンノ ガイナドトキテ サリゲナキ ヒトヨリウバヒ タキコトバアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.96
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (6)


00711
筋書きのやうには運ばぬ心かとながく跼めり秋海棠の芽に
スジガキノ ヤウニハハコバヌ ココロカト ナガクカガメリ ベゴニアノメニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.96
【初出】 『短歌新聞』 1958.6 花殻 (18)


00712
萌え早き蕁麻抜きて焼べむとしまざまざと疎外されしを思ふ
モエハヤキ イラクサヌキテ クベムトシ マザマザトソガイ サレシヲオモフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.97
【初出】 『形成』 1959.4 早春 (2)


00713
蕩揺をこばまぬ水におとす影根もとの紅き菜を洗ひゐて
トウヨウヲ コバマヌミズニ オトスカゲ ネモトノアカキ ナヲアラヒヰテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.97
【初出】 『短歌』 1958.7 夢うら (4)


00714
詰る手紙ねぎらふ葉書などありてかさね置く夜の心に重く
ナジルテガミ ネギラフハガキ ナドアリテ カサネオクヨノ ココロニオモク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.97
【初出】 『形成』 1959.3 季冬のころ (1)


00715
何つなぎ置きたき心ことわらむ返事幾夜も書きなづみつつ
ナニツナギ オキタキココロ コトワラム ヘンジイクヨモ カキナヅミツツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.98
【初出】 『短歌研究』 1959.4 占象 (11)


00716
妹の訳しくれたるミュッセの詩たどきなき夜の机にひらく
イモウトノ ヤクシクレタル ミュッセノシ タドキナキヨノ ツクエニヒラク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.98
【初出】 『形成』 1956.8 雨後 (1)


00717
朝靄のいまだなづさふ木の間より見え来て児らの遊べる日向
アサモヤノ イマダナヅサフ コノマヨリ ミエキテコラノ アソベルヒナタ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.98
【初出】 『短歌』 1958.3 夜陰のおと (7)