夜霧の底


00734
裏通りをひろひて歩むごとき身と静かなる日に倦むことのあり
ウラドオリヲ ヒロヒテアユム ゴトキミト シズカナルヒニ ウムコトノアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.105
【初出】 『形成』 1956.11 豫後 (9)


00735
よりどなき午後となりつつかたはらの棚は帳簿の重みに撓ふ
ヨリドナキ ゴゴトナリツツ カタハラノ タナハチョウボノ オモミニシナフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.105
【初出】 『形成』 1958.5 春信 (5)


00736
おのづから草ある方へ移ろふと絵のなかの羊の群れを追ひゆく
オノヅカラ クサアルカタヘ ウツロフト エノナカノヒツジノ ムレヲオヒユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.106
【初出】 『短歌』 1958.3 夜陰のおと (6)


00737
かたはらの鏡ふたたび振り向かずものを嚙むとき顳顬うごく
カタハラノ カガミフタタビ フリムカズ モノヲカムトキ コメカミウゴク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.106
【初出】 『形成』 1957.3 冬土 (6)


00738
なづみ易き夕べよかへり見る波止場アリゾナ号にも灯はともりたり
ナヅミヤスキ ユウベヨカヘリ ミルハトバ アリゾナゴウニモ ヒハトモリタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.106
【初出】 『形成』 1957.3 冬土 (7)


00739
夜霧の底を歩みつつゐて何の花かわれを虐む香と思ひたり
ヨギリノソコヲ アユミツツヰテ ナンノハナカ ワレヲサイナム カトオモヒタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.107
【初出】 『形成』 1957.10 秋近く (7)


00740
内深き磨耗のわれにいつ熄まむ風穴遠く夜もすがら鳴る
ウチフカキ マモウノワレニ イツヤマム カザアナトオク ヨモスガラナル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.107
【初出】 『形成』 1958.2 冬木 (4)


00741
更けてより月さす窓よ海ひとつ越えたるごときめざめは来ずや
フケテヨリ ツキサスマドヨ ウミヒトツ コエタルゴトキ メザメハコズヤ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.107
【初出】 『形成』 1957.3 冬土 (4)