湖上の虹


00758
風起こしつつゆくバスにゆられゐて野末に光り来む湖を待つ
カゼオコシ ツツユクバスニ ユラレヰテ ノズエニヒカリ コムウミヲマツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.114
【初出】 『形成』 1956.10 ものの音 (8)


00759
対岸にかすむ木立は志田浜か湖上にあはき虹たちながら
タイガンニ カスムコダチハ シダハマカ コジョウニアハキ ニジタチナガラ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.114
【初出】 『形成』 1957.1 淡水 (6)


00760
いくたびか雲のかげゆく水の上常春藤はあをき花もちて垂る
イクタビカ クモノカゲユク ミズノウエ キヅタハアヲキ ハナモチテタル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.115
【初出】 『短歌』 1958.3 夜陰のおと (14)


00761
かの山を一つ越ゆれば若き日の父母が捨てたるふるさとの村
カノヤマヲ ヒトツコユレバ ワカキヒノ フボガステタル フルサトノムラ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.115
【初出】 『形成』 1957.1 淡水 (7)


00762
あやまたず雁は帰るや湖をおほへる夜半の狭霧をつきて
アヤマタズ カリハカエルヤ ミズウミヲ オホヘルヨワノ サギリヲツキテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.115
【初出】 『形成』 1957.1 淡水 (8)


00763
水底に無数の蠟の灯るごと麓の街は遠し夜霧に
ミナソコニ ムスウノロウノ トモルゴト フモトノマチハ トオシヨギリニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.116
【初出】 『形成』 1958.7 夜景 (2)


00764
遅れたる一人がおらびながら追ふ気配と思ひつつ覚めゐたり
オクレタル ヒトリガオラビ ナガラオフ ケハイトオモヒ ツツサメヰタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.116
【初出】 『形成』 1957.8 古時計 (7)


00765
山の駅のながき停車に女ひとり向きを変へつつ麦踏める見ゆ
ヤマノエキノ ナガキテイシャニ オンナヒトリ ムキヲカヘツツ ムギフメルミユ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.116
【初出】 『形成』 1957.6 風の中 (2)