母の家


00774
菜種蒔き麦蒔き峡の日々晴れてしづけく冬を待つ一部落
ナタネマキ ムギマキカヒノ ヒビハレテ シヅケクフユヲ マツイチブラク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.120
【初出】 『形成』 1958.12 季秋 (5)


00775
スレートを貨車よりおろす工夫らのたのしむ如し弾みをつけて
スレートヲ カシャヨリオロス コウフラノ タノシムゴトシ ハズミヲツケテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.120
【初出】 『形成』 1959.4 早春 (5)


00776
手順よく倒されてゆく大樹見つとみに誇張を避くる思ひに
テジュンヨク タオサレテユク タイジュミツ トミニコチョウヲ サクルオモヒニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.121
【初出】 『短歌研究』 1959.4 占象 (3)


00777
バスを待つ日溜りの椅子に毛糸編めり唖の少女の中なるひとり
バスヲマツ ヒダマリノイスニ ケイトアメリ オシノショウジョノ ナカナルヒトリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.121
【初出】 『形成』 1958.2 冬木 (5)


00778
妹の炊ぐ飯匂ひくる夕べ柚子もぎにゆける母も帰らむ
イモウトノ カシグイヒニオヒ クルユウベ ユズモギニユケル ハハモカエラム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.121
【初出】 『形成』 1956.3 冬草 (1)


00779
さまよへる心をしばし跼まりて見れば松笠に点る火のいろ
サマヨヘル ココロヲシバシ クグマリテ ミレバチヂリニ トモルヒノイロ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.122
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (4)


00780
福分けと言ひつつ干菓子割り呉るる優しき母の挙措と思ひつ
フクワケト イヒツツヒガシ ワリクルル ヤサシキハハノ キョソトオモヒツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.122
【初出】 『形成』 1958.7 夜景 (5)


00781
母のみが知りてたのしむ朝々に庭にゐるとふ小雀のつがひ
ハハノミガ シリテタノシム アサアサニ ニワニヰルトフ コガラノツガヒ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.122
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (10)