重き年月


00782
幾つもの印章を委ねられて持つことなどに支へられゐる日あり
イクツモノ インショウヲ ユダネラレテ モツコトナドニ ササへラレヰルヒアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.123
【初出】 『形成』 1959.12 秋深む日々 (1)


00783
どうにでもとれる言葉にじれてゆく組織持たざる複数として
ドウニデモ トレルコトバニ ジレテユク ソシキモタザル フクスウトシテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.123
【初出】 『形成』 1959.4 早春 (4)


00784
出で来ては脅やかすものキャップ無き万年筆はた注射筒など
イデキテハ オビヤカスモノ キャップナキ マンネンヒツハタ チュウシャトウナド

『不文の掟』(四季書房 1960) p.124
【初出】 『形成』 1959.8 雨のあと (6)


00785
迂闊にて把手に指紋を残せしと悔いゐき何を犯せる夢ぞ
ウカツニテ ノブニシモンヲ ノコセシト クイヰキナニヲ オカセルユメゾ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.124
【初出】 『形成』 1959.12 秋深む日々 (6)


00786
音程をはづせしままに弾きつげる絃とも重き年月流る
オンテイヲ ハヅセシママニ ヒキツゲル ゲントモオモキ トシツキナガル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.124
【初出】 『形成』 1960.1 霜月抄 (6)


00787
草蔽ふ水路に添ひて歩みしが聴きのがしたる言葉は無きや
クサオオフ スイロニソヒテ アユミシガ キキノガシタル コトバハナキヤ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.125


00788
対岸の楢の林に陽のさして間なく落ち葉の降る見つつ過ぐ
タイガンノ ナラノハヤシニ ヒノサシテ マナクオチバノ フルミツツスグ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.125
【初出】 『形成』 1958.12 季秋 (4)


00789
フルートを習ひゐることも書きそへて洛北の秋を告げ来し便り
フルートヲ ナラヒヰルコトモ カキソヘテ ラクホクノアキヲ ツゲコシタヨリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.125


00790
まとまりを取り戻しゆく夜の心検温の手をあたためてゐて
マトマリヲ トリモドシユク ヨノココロ ケンオンノテヲ アタタメテヰテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.126
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (7)


00791
環礁に湛ふる水を恋ひゐしがなまあたたかき睡りは襲ふ
カンショウニ タフルミズヲ コヒヰシガ ナマアタタカキ ネムリハオソフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.126
【初出】 『形成』 1960.6 矢車の空 (6)


00792
折り鶴の尾羽触れあへる音に醒めていづべをわれは翔りゐたらむ
オリヅルノ ヲハフレアヘル ネニサメテ イヅベヲワレハ カケリヰタラム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.126