羅刹の貌


00808
身を交はす構へに歩む街の上まぼろしなして雁流る
ミヲカハス カマヘニアユム マチノウエ マボロシナシテ カリガネナガル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.134
【初出】 『形成』 1959.3 季冬のころ (3)


00809
鍵たばのごときを鳴らし過ぎゆける人ありたどきなき夕闇に
カギタバノ ゴトキヲナラシ スギユケル ヒトアリタドキ ナキユウヤミニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.134
【初出】 『形成』 1959.5 夕かげ (1)


00810
確めむと願ひゐしこと何ならむ今は埠頭のあかりも消えて
タシカメムト ネガヒヰシコト ナニナラム イマハフトウノ アカリモキエテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.135
【初出】 『短歌研究』 1959.4 占象 (4)


00811
炭殻を運び来ては田を埋めゆき人らはかどる仕事持ちたり
タンガラヲ ハコビキテハ タヲウメユキ ヒトラハカドル シゴトモチタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.135
【初出】 『形成』 1959.8 雨のあと (5)


00812
館跡の礎石に朝の雨過ぎて野菜の市況告げゐるマイク
ヤカタアトノ ソセキニアサノ アメスギテ ヤサイノシキョウ ツゲヰルマイク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.135
【初出】 『形成』 1959.8 雨のあと (3)


00813
泥みやすきわれと思ひて寂しきにゆであげし三つ葉切り揃へゆく
ナヅミヤスキ ワレトオモヒテ サビシキニ ユデアゲシミツバ キリソロヘユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.136
【初出】 『形成』 1959.5 夕かげ (2)


00814
指貫をはめしままなる夜の眠り夫の記憶もはるかになりぬ
ユビヌキヲ ハメシママナル ヨノネムリ ツマノキオクモ ハルカニナリヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.136
【初出】 『形成』 1959.3 季冬のころ (4)


00815
散らばりて夜毎の夢を乱し来し紙片か束のまま燃す書類
チラバリテ ヨゴトノユメヲ ミダシコシ シヘンカタバノ ママモスショルイ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.136
【初出】 『短歌研究』 1959.4 占象 (12)


00816
縛めを解き合ふごとくありたきを晦み漂ひ昨日今日過ぐ
イマシメヲ トキアフゴトク アリタキヲ クラミタダヨヒ キノウキョウスグ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.137
【初出】 『形成』 1959.7 すぎゆく日々 (5)


00817
送られし形見の鏡梱包を解くてのひらを映してゐたり
オクラレシ カタミノカガミ コンパウヲ トクテノヒラヲ ウツシテヰタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.167
【初出】 『形成』 1956.10 ものの音 (2)


00818
かたちなくわれのゆくてを阻むもの羅刹の貌をして現れよ
カタチナク ワレノユクテヲ コバムモノ ラセツノカホヲ シテアラワレヨ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.137
【初出】 『形成』 1959.8 雨のあと (2)