逸れ矢


00837
朝焼けの美しき日々フレームに匂菫の咲きたまりゆく
アサヤケノ ウツクシキヒビ フレームニ ニホヒスミレノ サキタマリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.145
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (1)


00838
逸れ矢など飛びては来ずや葦の間を縫ひて汀へ帰るヨットに
ソレヤナド トビテハコズヤ アシノマヲ ヌヒテミギハヘ カエルヨットニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.145
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (2)


00839
流亡の相と言はれし中指の渦紋も夏の手袋に秘む
リュウボウノ サウトイハレシ ナカユビノ カモンモナツノ テブクロニヒム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.146
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (8)


00840
うろくづの跳ぬる音よりひそかにて隕石水に墜つる夜あらむ
ウロクヅノ ハヌルオトヨリ ヒソカニテ インセキミズニ オツルヨアラム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.146
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (3)


00841
わかちもつ密計もなくて歩みつつ一人は石を湖の面に抛ぐ
ワカチモツ ミツケイモナクテ アユミツツ ヒトリハイシヲ ウミノモニナグ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.146
【初出】 『短歌研究』 1958.1 夕占 (10)


00842
ふり向かせたくて口笛鳴らせしか地上のなべてむなしき刻に
フリムカセ タクテクチブエ ナラセシカ チジョウノナベテ ムナシキトキニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.147
【初出】 『形成』 1958.2 冬木 (2)


00843
遺作の自画像かかるアトリエに今日はたれかゐてあかりを点す
イサクノ ジガゾウカカル アトリエニ キョウハタレカヰテ アカリヲトモス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.147
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (6)


00844
地の闇をまとひて立てる石像のうなじに届くあはき灯影は
チノヤミヲ マトヒテタテル セキゾウノ ウナジニトドク アハキホカゲハ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.147
【初出】 『形成』 1958.9 夏日 (3)


00845
闇と闇をつなぎてひらく門ありき寂しみて夜の大橋渡る
ヤミトヤミヲ ツナギテヒラク モンアリキ サビシミテヨノ オオハシワタル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.148
【初出】 『形成』 1958.5 春信 (6)


00846
風のごと貨車過ぎゆきし野のかなたくらき木立も星かげまとふ
カゼノゴト カシャスギユキシ ノノカナタ クラキコダチモ ホシカゲマトフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.148
【初出】 『短歌』 1958.7 夢うら (1)


00847
衿ぐりの深きさみしさ旅の夜に失ひしブローチのゆゑのみならぬ
エリグリノ フカキサミシサ タビノヨノ ウシナヒシブローチノ ユヱノミナラヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.148
【初出】 『形成』 1958.12 季秋 (6)