不文の掟


00856
片空の虹もうすれて凪ぎ深しまつはる犬を枯れ木につなぐ
カタソラノ ニジモウスレテ ナギフカシ マツハルイヌヲ カレキニツナグ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.152
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (27)


00857
錆び釘を拾ひて土に書きし文字落ち葉の下に幾日保たむ
サビクギヲ ヒロヒテツチニ カキシモジ オチバノシタニ イクヒタモタム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.152
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (2)


00858
落ちのびし思ひに歩む霧のなか野飼ひの馬の影ら漂ふ
オチノビシ オモヒニアユム キリノナカ ノガヒノウマノ カゲラタダヨフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.153
【初出】 『形成』 1960.1 霜月抄 (1)


00859
針山にもつれゐし糸ほぐしゐてきれぎれに戻りくる記憶あり
ハリヤマニ モツレヰシイト ホグシヰテ キレギレニモドリ クルキオクアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.153
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (5)


00860
しづくしてゐしアカンサス鎮まれば理詰めに言へることもはかなし
シヅクシテ ヰシアカンサス シズマレバ リズメニイヘル コトモハカナシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.153
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (7)


00861
へだたりを確かめ合へば足るごとくドア押して出づ夜霧の街に
ヘダタリヲ タシカメアヘバ タルゴトク ドアオシテイヅ ヨギリノマチニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.154
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (8)


00862
マジョリカの壼伏せ置きて久しきにシレーヌのこゑも蘇り来ず
マジョリカノ ツボフセオキテ ヒサシキニ シレーヌノコヱモ ヨミガエリコズ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.154
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (10)


00863
身を逼むる不文の掟思ふ夜もミモザがこぼす黄なる花びら
ミヲセムル フブンノオキテ オモフヨモ ミモザガコボス キナルハナビラ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.154
【初出】 『形成』 1960.1 霜月抄 (2)