石廊


00880
石仏の膝に小石の積まれゐて陽あたる坂は古利根の土手
セキブツノ ヒザニコイシノ ツマレヰテ ヒアタルサカハ フルトネノドテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.161
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (1)


00881
枯れ原のかなたまばらに人動き酸度調べむ土を採りゐる
カレハラノ カナタマバラニ ヒトウゴキ サンドシラベム ツチヲトリヰル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.161
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (2)


00882
落ち葉の上に置きて戻りつ光りゐて遺品のごときパレットナイフ
オチバノウエニ オキテモドリツ ヒカリヰテ イヒンノゴトキ パレットナイフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.162
【初出】 『形成』 1959.10 物語り (3)


00883
ストールのひるがへりつつ歩む影堤の上を遠ざかりゆく
ストールノ ヒルガヘリツツ アユムカゲ ツツミノウエヲ トオザカリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.162
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (13)


00884
指先の傷に丁幾はにじみゆき堰きとめがたくなりゐる言葉
ユビサキノ キズニチンキハ ニジミユキ セキトメガタク ナリヰルコトバ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.162
【初出】 『形成』 1960.1 霜月抄 (5)


00885
語原など知り得しことの何ならむ書庫閉ぢて石の廊下を渡る
ゴゲンナド シリエシコトノ ナニナラム ショコトヂテイシノ ロウカヲワタル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.163
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (16)


00886
死語ばかり知る寂しさか本あまた積みて焚きゐる夢など見つつ
シゴバカリ シルサビシサカ ホンアマタ ツミテタキヰル ユメナドミツツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.163
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (18)


00887
喪の記事を足して校了とし来し夜の電熱器の渦音無く点る
モノキジヲ タシテコウリョウトシ コシヨルノ ヒーターノウズ オトナクトモル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.163
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (24)