夜の錯落


00899
みづからの吐きし言葉に縛られむ森ゆけば木々の生傷匂ふ
ミヅカラノ ハキシコトバニ シバラレム モリユケバキギノ ナマキズニオフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.168
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (3)


00900
肩触れて揺られゆくとも行く先の違ふ切符を別々に持つ
カタフレテ ユラレユクトモ ユクサキノ チガフキップヲ ベツベツニモツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.168
【初出】 『形成』 1959.10 物語り (5)


00901
ネオンの天馬仰ぎゆきつつ病む母に待たれゐる身を紛はし得ず
ネオンノテンマ アオギユキツツ ヤムハハニ マタレヰルミヲ マギラハシエズ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.169
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 (5)


00902
ライターの火もてロープを切れる見つ錯落はまたきざさむとして
ライターノ ヒモテロープヲ キレルミツ サクラクハマタ キザサムトシテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.169


00903
踏みはづす夢ばかり見て来しわれか霧のなかより繩梯子垂る
フミハヅス ユメバカリミテ コシワレカ キリノナカヨリ ナハバシゴタル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.169
【初出】 『形成』 1959.10 物語り (1)


00904
掌紋の上昇線を指し呉れし卜者のこゑも須臾にして消ゆ
ショウモンノ ジョウショウセンヲ サシクレシ ボクシャノコヱモ シュユニシテキユ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.170
【初出】 『形成』 1959.12 秋深む日々 (2)


00905
ウインドゥのネクタイと影と入り乱れ交はす言葉の齟齬のみ開く
ウインドゥノ ネクタイトカゲト イリミダレ カハスコトバノ ソゴノミヒラク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.170
【初出】 『形成』 1960.6 矢車の空 (4)


00906
あらはなる寓意をうとみ帰り来て帯解きたたむ膝冷えながら
アラハナル グウイヲウトミ カエリキテ オビトキタタム ヒザヒエナガラ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.170
【初出】 『形成』 1957.5 風塵 (7)