夜の修羅


00964
偽りを名乗る要などなきことのふと寂しくてロビーに待てり
イツワリヲ ナノルヨウナド ナキコトノ フトサビシクテ ロビーニマテリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.17
【初出】 『短歌研究』 1960.11 無証の夜 (5)


00965
奪魂の術などもわれは持ちたきに影近寄せて街灯ともる
ダツコンノ スベナドモワレハ モチタキニ カゲチカヨセテ ガイトウトモル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.17
【初出】 『短歌』 1960.12 西域の壺 (6)


00966
反応を示すことなく聴き終へて立ち場互角となりし時の間
ハンノウヲ シメスコトナク キキオヘテ タチバゴカクト ナリシトキノマ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.18
【初出】 『短歌』 1960.12 西域の壺 (16)


00967
遠近の正しき絵にて動き得ぬ人間も牛の群れも苦しき
エンキンノ タダシキエニテ ウゴキエヌ ニンゲンモウシノ ムレモクルシキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.18
【初出】 『短歌研究』 1960.11 無証の夜 (4)


00968
ワイパーは硝子擦りゐておもむろに見え来るわれの入り込まむ隙
ワイパーハ ガラススリヰテ オモムロニ ミエクルワレノ イリコマムスキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.18
【初出】 『短歌』 1960.12 西域の壺 (7)


00969
燃え殻のごとき心と思はねど焚き火かこむ輪を崩して去りぬ
モエガラノ ゴトキココロト オモハネド タキビカコムワヲ クズシテサリヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.19
【初出】 『形成』 1961.4 路上抄 (4)


00970
温覚を失ひゆくと思ふまで待ちていかなる夜の修羅を見む
オンカクヲ ウシナヒユクト オモフマデ マチテイカナル ヨノシュラヲミム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.19
【初出】 『短歌』 1960.12 西域の壺 (26)


00971
銅鑼にぶく鳴らし出でゆく船があり醒めて白夜のごときしづもり
ドラニブク ナラシイデユク フネガアリ サメテビャクヤノ ゴトキシヅモリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.19
【初出】 『形成』 1961.9 田園抄 (5)


00972
病棟の略図書きやりて別れしがわが名は如何に告げられてゐむ
ビョウトウノ リャクズカキヤリテ ワカレシガ ワガナハイカニ ツゲラレテヰム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.20
【初出】 『短歌研究』 1960.11 無証の夜 (8)


00973
ハイヤーをとめむと挙げし腕にずり腕環すでに夜の冷え持つ
ハイヤーヲ トメムトアゲシ ウデニズリ ブレスレットスデニ ヨルノヒエモツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.20
【初出】 『短歌研究』 1960.11 無証の夜 (2)


00974
フレームを造る計画持ちあへば来たらむ冬に幸待つごとし
フレームヲ ツクルケイカク モチアヘバ キタラムフユニ サチマツゴトシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.20
【初出】 『短歌』 1960.12 西域の壺 (30)