雪の章


00975
光りつつ降る淡雪よ夜の橋を幾つ渡りて行かば逢ひ得む
ヒカリツツ フルアワユキヨ ヨノハシヲ イクツワタリテ ユカバアヒエム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.22
【初出】 『形成』 1961.3 冬夜抄 (2)


00976
確かめ得し記憶の一つはかなくて重き字引きを棚に戻しぬ
タシカメエシ キオクノヒトツ ハカナクテ オモキジビキヲ タナニモドシヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.22
【初出】 『形成』 1961.11 新秋抄 (4)


00977
賭けて待つこと危ふきか束の間にロデオの騎手は振り落されつ
カケテマツ コトアヤフキカ ツカノマニ ロデオノキシュハ フリオトサレツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.23
【初出】 『形成』 1961.11 新秋抄 (5)


00978
人ごみをかきわけし時渡されて割り符のごとき紙きれを持つ
ヒトゴミヲ カキワケシトキ ワタサレテ ワリフノゴトキ カミキレヲモツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.23


00979
なほざりに告げ来し語彙の疼くまま塩打ちて置く鯖の半身に
ナホザリニ ツゲコシゴイノ ウヅクママ シオウチテオク サバノハンミニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.23
【初出】 『形成』 1961.1 初冬抄 (2)


00980
英文の手紙など呉れて寂しきか夜のへだたりに雪降りしきる
エイブンノ テガミナドクレテ サビシキカ ヨノヘダタリニ ユキフリシキル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.24
【初出】 『形成』 1961.1 初冬抄 (5)


00981
亡き母の縫ひ残したる裾を綴ぢいつまで脆きこころと思ふ
ナキハハノ ヌヒノコシタル スソヲトヂ イツマデモロキ ココロトオモフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.24
【初出】 『形成』 1961.1 初冬抄 (6)


00982
信じたき人らの前にひろげられ詐術のごとき折線グラフ
シンジタキ ヒトラノマエニ ヒロゲラレ サジュツノゴトキ オレセングラフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.24
【初出】 『形成』 1961.4 路上抄 (5)


00983
触発を怖れて噤みし言葉あり歩度ゆるめたることも知りつつ
ショクハツヲ オソレテツグミシ コトバアリ ホドユルメタル コトモシリツツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.25
【初出】 『形成』 1961.4 路上抄 (1)


00984
柱像の双手が支へゐし屋根の重み夜更けてわが肩に来る
アトラントノ モロテガササヘ ヰシヤネノ オモミヨフケテ ワガカタニクル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.25


00985
山脈に雪ひだ蒼くかげるまで待ちしことさへ告げむすべなし
ヤマナミニ ユキヒダアオク カゲルマデ マチシコトサヘ ツゲムスベナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.25
【初出】 『形成』 1961.4 路上抄 (2)