その後


00986
船火事の遠景を映す夜のテレビ巻き添へをくひし寂しさにゐて
フナカジノ エンケイヲウツス ヨノテレビ マキゾヘヲクヒシ サビシサニヰテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.26
【初出】 『形成』 1961.3 冬夜抄 (1)


00987
わが岸をしきりに抉る流れあり夜更けて風の音を伴ふ
ワガキシヲ シキリニヱグル ナガレアリ ヨフケテカゼノ オトヲトモナフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.26


00988
朱を塗りて仕上げしグラフみづからの信じ得ぬ日も人は信ぜむ
シュヲヌリテ シアゲシグラフ ミヅカラノ シンジエヌヒモ ヒトハシンゼム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.27


00989
三椏は毛深き花と触れて見つ夢のつづきのしぐさのごとく
ミツマタハ ケブカキハナト フレテミツ ユメノツヅキノ シグサノゴトク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.27


00990
音量を下げつつ待つに鼓手の身振り映して久しきテレビ
オンリョウヲ サゲツツマツニ ドラマーノ ミブリウツシテ ヒサシキテレビ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.27


00991
受け身にて生きゐるとのみ思はねどわがめぐり不意に空気さわだつ
ウケミニテ イキヰルトノミ オモハネド ワガメグリフイニ クウキサワダツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.28
【初出】 『形成』 1961.11 新秋抄 (3)


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新しき銃と霰弾買ひ込みて山に帰りしその後を知らず
アタラシキ ジュウトサンダン カヒコミテ ヤマニカエリシ ソノゴヲシラズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.28


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鷺草の花の無数がはばたくと夕日の河原さわだちやすし
サギソウノ ハナノムスウガ ハバタクト ユウヒノカワラ サワダチヤスシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.28