三叉路


01002
雨のなかに赭く錆びゆく朴の花昨夜の夢さへわれをあざむく
アメノナカニ アカクサビユク ホオノハナ ヨベノユメサヘ ワレヲアザムク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.32
【初出】 『新日記白樺』 1963.1 三叉路 (1)


01003
ハイヤーを洗ふホースがくねりゐて予感するどし朝の駅前
ハイヤーヲ アラフホースガ クネリヰテ ヨカンスルドシ アサノエキマエ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.32
【初出】 『新日記白樺』 1963.1 三叉路 (2)


01004
対きあひてプルニエの皿あけしのみ掠むるやうにバスは発ちゆく
ムキアヒテ プルニエノサラ アケシノミ カスムルヤウニ バスハタチユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.33
【初出】 『新日記白樺』 1963.1 三叉路 (3)


01005
漂鳥の自在を阻む何あらむ或る日は重く地にゐる鳩ら
ヒョウチョウノ ジザイヲハバム ナニアラム アルヒハオモク チニヰルハトラ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.33
【初出】 『新日記白樺』 1963.1 三叉路 (4)


01006
印章をあつらへに入りて小暗きに癖つよき文字カードに記す
インシヨウヲ アツラヘニイリテ オグラキニ クセツヨキモジ カードニシルス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.33
【初出】 『新日記白樺』 1963.1 三叉路 (5)


01007
タール煮るかたはら過ぎて襟暑し何時訪ひ来ても騒ける町
タールニル カタハラスギテ エリアツシ イツトヒキテモ ザワツケルマチ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.34
【初出】 『新日記白樺』 1963.1 三叉路 (6)


01008
油菜は青き実莢をかかげゐつ埋立てを終へて久しき空き地
アブラナハ アオキミザヤヲ カカゲヰツ ウメタテヲオヘテ ヒサシキアキチ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.34
【初出】 『形成』 1961.9 田園抄 (2)


01009
住みがたき町と思ふに三叉路は風を呼びつつ風鈴売らる
スミガタキ マチトオモフニ サンサロハ カゼヲヨビツツ フウリンウラル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.34