目次
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全短歌(歌集等)
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無数の耳
思ひなづさふ
来し方に
表札の
おのづから
新しき
地取りして
みづからの
錆びいろの
いかならむ
内情に
溶闇に
ゆとりなく
01010
来し方に思ひなづさふ夜の時間切れ易き躾糸をつなぎて
コシカタニ オモヒナヅサフ ヨノジカン キレヤスキシツケ イトヲツナギテ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.35
【初出】
『形成』 1961.3 冬夜抄 (4)
01011
表札のなき門構へつづく道背景のみのととのひやすし
ヒョウサツノ ナキモンガマヘ ツヅクミチ ハイケイノミノ トトノヒヤスシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.35
【初出】
『形成』 1961.3 冬夜抄 (3)
01012
おのづからつながる頸を夜々に待つ顔なき埴輪机に置きて
オノヅカラ ツナガルクビヲ ヨヨニマツ カオナキハニワ ツクエニオキテ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.36
01013
新しき木鋏鳴らし薔薇切れば音叉の立てし音がかへり来る
アタラシキ キバサミナラシ バラキレバ オンサノタテシ ネガカヘリクル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.36
01014
地取りして縄を矩形に張りゆけり梅の落ち実はたれも拾はず
ヂトリシテ ナワヲクケイニ ハリユケリ ウメノオチミハ タレモヒロハズ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.36
01015
みづからの肩揉みほぐしゐる夜更け錆びつく前の語彙がふくらむ
ミヅカラノ カタモミホグシ ヰルヨフケ サビツクマエノ ゴイガフクラム
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.37
【初出】
『形成』 1961.4 路上抄 (3)
01016
錆びいろの砂利渡り来て雨の中井桁に朽ちし枕木積まる
サビイロノ ジャリワタリキテ アメノナカ イゲタニクチシ マクラギツマル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.37
【初出】
『形成』 1961.9 田園抄 (4)
01017
いかならむ未来をわれに描きゐて家を建てよと人のいざなふ
イカナラム ミライヲワレニ エガキヰテ イエヲタテヨト ヒトノイザナフ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.37
【初出】
『形成』 1961.9 田園抄 (1)
01018
内情に立ち入ることも苦しきに白く乾ける河床を渡る
ナイジョウニ タチイルコトモ クルシキニ シロクカワケル カショウヲワタル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.38
【初出】
『形成』 1961.4 路上抄 (6)
01019
溶闇に転換さるる場面にて映画ならねばながながと会ふ
ヨウアンニ テンカンサルル バメンニテ エイガナラネバ ナガナガトアフ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.38
01020
ゆとりなく過ごせし悔いの疼くまま草むらに花の種子集めゆく
ユトリナク スゴセシクイノ ウヅクママ クサムラニハナノ シュシアツメユク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.38
【初出】
『形成』 1961.11 新秋抄 (1)