立春の鈴


01021
ユッカ蘭の葉に刺されし手夜に入りて遠き記憶とかさなり疼く
ユッカランノ ハニササレシテ ヨニイリテ トオキキオクト カサナリウヅク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.40
【初出】 『形成』 1962.2 冬の傷あと (1)


01022
風邪癒えて頭痛かすかに残る日々噂の中のわれのみはばたく
カゼイエテ ズツウカスカニ ノコルヒビ ウワサノナカノ ワレノミハバタク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.40
【初出】 『形成』 1962.2 冬の傷あと (2)


01023
頸の線なだらかに胸へほどけゐしルノアールの少女をりふしに恋ふ
クビノセン ナダラカニムネヘ ホドケヰシ ルノアールノショウジョ ヲリフシニコフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.41
【初出】 『形成』 1962.12 枯れ生 (2)


01024
駅前の案内図見て立つ女用なきわれは土橋を渡る
エキマエノ アンナイズミテ タツオンナ ヨウナキワレハ ドバシヲワタル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.41
【初出】 『形成』 1962.5 春を呼ぶ (6)


01025
岬まで行かずに戻る冬のバス午後の陽はうすく沖に差しゐて
ミサキマデ ユカズニモドル フユノバス ゴゴノヒハウスク オキニサシヰテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.41


01026
堤防の切れめの闇をのぼり来て今し太陽の真横を歩む
テイボウノ キレメノヤミヲ ノボリキテ イマシタイヨウノ マヨコヲアユム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.42
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (13)


01027
蔓草の踵にからむ登り坂言ひ直しつつ語気も移ろふ
ツルクサノ カカトニカラム ノボリサカ イヒナオシツツ ゴキモウツロフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.42
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (15)


01028
いつとなくわれの纏へる影に似て敏く曇りを張る銀の匙
イツトナク ワレノマトヘル カゲニニテ サトククモリヲ ハルギンノサジ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.42


01029
砂利の目に詰まれる松葉掃きなづみ予後の五体の次第に疎し
ジャリノメニ ツマレルマツバ ハキナヅミ ヨゴノゴタイノ シダイニウトシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.43
【初出】 『形成』 1962.3 冬雲 (1)


01030
受診待つ乱座の中へ運ばれし煉炭の孔に視線あつまる
ジュシンマツ ランザノナカヘ ハコバレシ レンタンノアナニ シセンアツマル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.43
【初出】 『形成』 1962.5 春を呼ぶ (4)


01031
陶の鈴振りて呼び戻す何あらむ夜に入りて降る立春の雨
タウノスズ フリテヨビモドス ナニアラム ヨニイリテフル リッシュンノアメ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.43
【初出】 『形成』 1962.5 春を呼ぶ (1)