無数の耳


01040
装ほへるよろこび淡く雨傘の輪をずらしつつ従ひゆきぬ
ヨソホヘル ヨロコビアハク カウモリノ ワヲズラシツツ シタガヒユキヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.47
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (4)


01041
かすかなる時報互に聴きわけて遅速異なる時間持ちあふ
カスカナル ジホウカタミニ キキワケテ チソクコトナル ジカンモチアフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.47
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (1)


01042
切り株につまづきたればくらがりに無数の耳のごとき木の葉ら
キリカブニ ツマヅキタレバ クラガリニ ムスウノミミノ ゴトキコノハラ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.48
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (2)


01043
耳たぶの小さき黒子を禍根とし朝々われは髪もて覆ふ
ミミタブノ チイサキホクロヲ カコントシ アサアサワレハ カミモテオオフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.48
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (3)


01044
芝焼きし痕のまだらに注ぐ雨囮の雌も鎮めて待たむ
シバヤキシ アトノマダラニ ソソグアメ ヲトリノメスモ シズメテマタム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.48
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (5)


01045
立体を取り戻しゆく夜の心くるめくやうなワルツを弾きて
リッタイヲ トリモドシユク ヨノココロ クルメクヤウナ ワルツヲヒキテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.49
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (6)


01046
みづからの呼び醒ましたる潮ざゐにゆれ出す壁画の中の破船も
ミヅカラノ ヨビサマシタル シオザヰニ ユレダスヘキガノ ナカノハセンモ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.49
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (7)


01047
重き髷のせゐて耳のなき埴輪耳鳴りは不意にわれに来襲ふ
オモキマゲ ノセヰテミミノ ナキハニワ ミミナリハフイニ ワレニキオソフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.49
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (5)


01048
菊石のおのおのが持つ輪郭を踏みつつぼけてゆく指点あり
キクイシノ オノオノガモツ リンカクヲ フミツツボケテ ユクシテンアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.50
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (12)


01049
指先の繃帯うすくよごれゐて午後の会話の次第に疎し
ユビサキノ ホウタイウスク ヨゴレヰテ ゴゴノカイワノ シダイニウトシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.50
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (13)


01050
拭ひ切れぬガラスの曇りわが持てる歪みも触れて痛まずなりぬ
ヌグヒキレヌ ガラスノクモリ ワガモテル ヒズミモフレテ イタマズナリヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.50
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (11)