珊瑚珠


01051
何遂げむ思ひともなし噴水と呼吸合ふまで立ちつくしゐて
ナニトゲム オモヒトモナシ フンスイト コキュウアフマデ タチツクシヰテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.51


01052
手袋のままダイヤルを廻しつつ不在を願ふ貌まぎれなし
テブクロノ ママダイヤルヲ マワシツツ フザイヲネガフ カホマギレナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.51


01053
電光ニュースのとぎれし字句をつなぐ恣意よみがへり来よかの同志
デンコウニュースノ トギレシジクヲ ツナグシイ ヨミガヘリコヨ カノタワリシチ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.52


01054
雪山の遺品をかこむ輪の中に確かめがたき死を恋ひゐたり
ユキヤマノ イヒンヲカコム ワノナカニ タシカメガタキ シヲコヒヰタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.52


01055
罪障のごとくときめき飾窓に血玉と謂へる珊瑚珠ありき
ザイショウノ ゴトクトキメキ ウインドウニ チダマトイヘル サンゴジュアリキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.52


01056
水滴を垂れつつ尖りゆく氷柱暗示にかかるごとく見てゐつ
スイテキヲ タレツツトガリ ユクツララ アンジニカカル ゴトクミテヰツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.53
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (23)


01057
温床のパイロツトランプ吹き消して来し悔いをふと点すに似たる
オンショウノ パイロットランプ フキケシテ コシクイヲフト トモスニニタル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.53
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (10)


01058
中傷の文字読みしあと硝子戸に映れるわれはゆらゆらと起つ
チュウショウノ モジヨミシアト ガラスドニ ウツレルワレハ ユラユラトタツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.53
【初出】 『短歌研究』 1972.8 無数の耳 (27)