目次
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全短歌(歌集等)
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無数の耳
蛾のかたち
焦臭き
袖口の
蛾の形
晩年の
ベーコンの
ビルの影と
リヤカーを
投槍の
ふたたびの
ふつふつと
あたたかき
夜の水は
夜の空に
安らかな
01070
焦臭き髪かと不意に思ほへて首振りて見つ夜風の中に
キナクサキ カミカトフイニ オモホヘテ クビフリテミツ ヨカゼノナカニ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.58
【初出】
『形成』 1962.10 路上抄 (3)
01071
袖口の毛糸のほつれ見しことも別れ来し夜のかなしみを呼ぶ
ソデグチノ ケイトノホツレ ミシコトモ ワカレコシヨノ カナシミヲヨブ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.58
【初出】
『形成』 1962.7 移る日々 (8)
01072
蛾の形たたみて壁に貼りつける周囲幾夜も塗りそびれゐる
ガノカタチ タタミテカベニ ハリツケル シュウイイクヨモ ヌリソビレヰル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.59
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (11)
01073
晩年の父母に及びてありふれし名を持つことも慰めあへり
バンネンノ フボニオヨビテ アリフレシ ナヲモツコトモ ナグサメアヘリ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.59
【初出】
『形成』 1962.6 瑣事 (3)
01074
ベーコンの脂肪層を薄く削ぐ機械体削がるるやうに見てゐつ
ベーコンノ シボウソウヲウスク ソグキカイ カラダソガルル ヤウニミテヰツ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.59
【初出】
『形成』 1962.6 瑣事 (7)
01075
ビルの影となりし広場を人よぎり救急箱の白きを運ぶ
ビルノカゲト ナリシヒロバヲ ヒトヨギリ キュウキュウバコノ シロキヲハコブ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.60
【初出】
『形成』 1962.2 冬の傷あと (5)
01076
リヤカーを呼びとめたれば少年は地に筆算して柿売りゆけり
リヤカーヲ ヨビトメタレバ ショウネンハ チニヒッサンシテ カキウリユケリ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.60
【初出】
『形成』 1962.2 冬の傷あと (3)
01077
投槍の打ち込まれたる地表より見えぬ亀裂は八方に散る
ジヤベリンノ ウチコマレタル チヒョウヨリ ミエヌキレツハ ハッポウニチル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.60
【初出】
『形成』 1962.6 瑣事 (6)
01078
ふたたびの忌の夜に恋へば耳鳴りの薬など点して堪へゐたる母
フタタビノ キノヨニコヘバ ミミナリノ クスリナドサシテ タヘヰタルハハ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.61
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (10)
01079
ふつふつと酵く木の実酒亡き母が残しゆきたるもの限りなし
フツフツト ワクコノミザケ ナキハハガ ノコシユキタル モノカギリナシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.61
【初出】
『形成』 1962.7 移る日々 (1)
01080
あたたかき計らひのごと月さして耳裂かれ来し犬を歩ます
アタタカキ ハカラヒノゴト ツキサシテ ミミサカレコシ イヌヲアユマス
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.61
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (18)
01081
夜の水は土手の切れめに光りゐて未詳の箇所を嘗て怖れき
ヨノミズハ ドテノキレメニ ヒカリヰテ ミショウノカショヲ カツテオソレキ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.62
01082
夜の空に雲の亀裂をちりばめて明るき月はいづこを渡る
ヨノソラニ クモノキレツヲ チリバメテ アカルキツキハ イヅコヲワタル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.62
【初出】
『形成』 1963.6 残冬抄 (2)
01083
安らかな眠りはあれよ持てる田の輪郭に稲架を掛けめぐらして
ヤスラカナ ネムリハアレヨ モテルタノ リンカクニハサヲ カケメグラシテ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.62
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (19)