訴人の貌


01084
どくだみの花夜々土に咲きみちて雨降れば音にまぎれて眠る
ドクダミノ ハナヨヨツチニ サキミチテ アメフレバオトニ マギレテネムル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.63
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (1)


01085
手を引かれのがれし記憶はろけきに矩形に水を溜めゐし球技場
テヲヒカレ ノガレシキオク ハロケキニ クケイニミズヲ タメヰシコート

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.63
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (2)


01086
どよめく群衆のなか一本の旗とわれはなりてゆさぶられゐつ
ドヨメク グンシュウノナカ イッポンノ ハタトワレハナリテ ユサブラレヰツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.64
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (3)


01087
醒めてより計れば速し流体となりてほろびしまでの時間
サメテヨリ ハカレバハヤシ リュウタイト ナリテホロビシ マデノジカン

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.64
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (4)


01088
たどきなき闇と思ひつ手探りに切符を捜す鞄の底も
タドキナキ ヤミトオモヒツ テサグリニ キップヲサガス カバンノソコモ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.64
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (7)


01089
スリッパのちらばる廊下抜け来しが訴人の貌はみづからも持つ
スリッパノ チラバルロウカ ヌケコシガ ソニンノカオハ ミヅカラモモツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.65
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (6)


01090
一瞬のこころ騒ぎつ口もとを直す鏡の反射が飛べば
イッシュンノ ココロサワギツ クチモトヲ ナオスカガミノ ハンシャガトベバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.65
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (11)


01091
クレパスの黒のみ減らしゑがくごとあやつる語彙の偏りやすし
クレパスノ クロノミヘラシ ヱガクゴト アヤツルゴイノ カタヨリヤスシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.65
【初出】 『律』 1962.6 訴人の貌 (12)