目次
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全短歌(歌集等)
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無数の耳
船のゆくへ
贈らるる
月光の
メトロノームに
叩きても
前の世に
みづからの
遠き日の
亡き母の
遺されし
カーテンの
原点を
十年を
額縁の
等身の
01100
贈らるる指環のサイズ告げやれど草抜きて日々に荒れゆくわが手
オクラルル ユビワノサイズ ツゲヤレド クサヌキテヒビニ アレユクワガテ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.69
01101
月光のかけらのごときガラス屑落ち葉焚く火に掃きよせてゆく
ゲッコウノ カケラノゴトキ ガラスクズ オチバタクヒニ ハキヨセテユク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.69
01102
メトロノームにせかされてゐし時の間に花氷の船は溶けて跡なし
メトロノームニ セカサレテヰシ トキノマニ ハナゴオリノフネハ トケテアトナシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.70
01103
叩きても鳴らぬ鍵盤の夢などに焦れつつ耳を病む幾夜あり
タタキテモ ナラヌケンバンノ ユメナドニ ジレツツミミヲ ヤムイクヨアリ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.70
01104
前の世に別れしままの夫のごと雨の夜更けの眼裏に来る
マエノヨニ ワカレシママノ ツマノゴト アメノヨフケノ マナウラニクル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.70
01105
みづからの重みに形撓みたるゼリーも一夜ありて凍らむ
ミヅカラノ オモミニカタチ タワミタル ゼリーモヒトヨ アリテコオラム
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.71
01106
遠き日の訣別に似てきれぎれに科白を洩らしゐる映画館
トオキヒノ ケツベツニニテ キレギレニ セリフヲモラシ ヰルエイガカン
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.71
01107
亡き母のくちずさみゐし数へ唄古毛糸つなぐをりふしに恋ふ
ナキハハノ クチズサミヰシ カゾヘウタ フルケイトツナグ ヲリフシニコフ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.71
01108
遺されし象牙の印もいつしかに用失ひて過ぎし年月
ノコサレシ ゾウゲノインモ イツシカニ ヨウウシナヒテ スギシトシツキ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.72
01109
カーテンの裾にゆふべの河光り素姓をつつむごとく坐れり
カーテンノ スソニユフベノ カワヒカリ スジョウヲツツム ゴトクスワレリ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.72
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (16)
01110
原点を通らぬ線のみ引きあふと互に淡しデザート剝きて
ゲンテンヲ トオラヌセンノミ ヒキアフト カタミニアハシ デザートムキテ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.72
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (17)
01111
十年を経てわが家に残りゐる男物の傘いつまた開く
ジュウネンヲ ヘテワガイエニ ノコリヰル オトコモノノカサ イツマタヒラク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.73
01112
額縁の中の坂道をりをりにわが呼びよせし人を歩ます
ガクブチノ ナカノサカミチ ヲリヲリニ ワガヨビヨセシ ヒトヲアユマス
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.73
01113
等身の古鏡置くわれの部屋次第に亡き母に似つつ太らむ
トウシンノ フルカガミオク ワレノヘヤ シダイニナキハハニ ニツツフトラム
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.73