影歪む夜


01114
音もなく迫る水深器を感じゐて沼底にゐしわれは目を明く
オトモナク セマルゾンデヲ カンジヰテ ヌマソコニヰシ ワレハメヲアク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.74
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (9)


01115
水いろの器に透けて奔放に根をひらきゆく冬のヒアシンス
ミズイロノ ウツハニスケテ ホンポウニ ネヲヒラキユク フユノヒアシンス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.74
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (6)


01116
風の夜の影歪む中一本の裸木が張れる神経の枝
カゼノヨノ カゲユガムナカ イッポンノ ラボクガハレル シンケイノエダ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.75
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (2)


01117
息詰めて吹けば鋭く鳴く土笛埴輪童児の双手へ返す
イキツメテ フケバスルドク ナクドブエ ハニワドウジノ モロテヘカエス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.75
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (3)


01118
復元を待てる土偶らこもごもの声響み夜となる資料室
フクゲンヲ マテルドグウラ コモゴモノ コエトヨミヨト ナルシリョウシツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.75
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (4)


01119
石像の眼窠にたまりゐし影のよみがへりつつまどろまむとす
セキゾウノ ガンカニタマリ ヰシカゲノ ヨミガヘリツツ マドロマムトス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.76


01120
橋灯のほとりに立ちて待つ時間かのときめきは還ることなし
キョウトウノ ホトリニタチテ マツジカン カノトキメキハ カエルコトナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.76
【初出】 『形成』 1964.12 「無題」 (6)


01121
地を這へる巻尺のくねる時ありて絆は深し街を行く日も
チヲハヘル マキジャクノクネル トキアリテ キズナハフカシ マチヲユクヒモ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.76
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (3)


01122
河原にあされる鷺ら足枷を不意に解かれしやうに飛び立つ
カハハラニ アサレルサギラ アシカセヲ フイニトカレシ ヤウニトビタツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.77


01123
銀糸もて下絵埋めゆく刺繍より遅々としてわが日々の糊塗あり
ギンシモテ シタエウメユク シシュウヨリ チチトシテワガ ヒビノコトアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.77


01124
乾し草をサイロに貯めて待つほどの充足もなく冬は来向ふ
ホシクサヲ サイロニタメテ マツホドノ ジュウソクモナク フユハキムカフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.77
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (20)