沼の遠景


01138
白々とひろがりやまずわが視野のはづれにありし一片の沼
シロジロト ヒロガリヤマズ ワガシヤノ ハヅレニアリシ ヒトヒラノヌマ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.84
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (1)


01139
枕木に雪積もりゐし夜の別れ呼び戻されむことを願ひき
マクラギニ ユキツモリヰシ ヨノワカレ ヨビモドサレム コトヲネガヒキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.84
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (2)


01140
フイルムを逆に回せばまざまざと枯れ葉まとひて立ちあがる木々
フイルムヲ ギャクニマワセバ マザマザト カレハマトヒテ タチアガルキギ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.85
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (3)


01141
川幅を黒くゑぐりて流れゐる水あり暮れし雪原行けば
カワハバヲ クロクヱグリテ ナガレヰル ミズアリクレシ ユキハラユケバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.85
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (4)


01142
獣面の一角獣が持てる角いつしか生ひて野をさまよはむ
ジュウメンノ イッカクジュウガ モテルツノ イツシカオヒテ ノヲサマヨハム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.85
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (5)


01143
靄ふかき対岸に今朝は斜塔など置き見つつバスに過ぎゆかむとす
モヤフカキ タイガンニケサハ シャトウナド オキミツツバスニ スギユカムトス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.86
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (9)


01144
放牛のごと帰り来む日を待つや木の間に光る枯れ原の道
ホウギュウノ ゴトカエリコム ヒヲマツヤ コノマニヒカル カレハラノミチ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.86
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (7)


01145
芯深く紫のいろ溜めてゐる葉牡丹を置く冬の机に
シンフカク ムラサキノイロ タメテヰル ハボタンヲオク フユノツクエニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.86
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (10)