陶の卵


01146
宿り木の青みわたれる森を行くつめたき陶の卵を持ちて
ヤドリギノ アオミワタレル モリヲユク ツメタキタウノ タマゴヲモチテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.87
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (18)


01147
亡き声にかどはかされて訪ひし家輝く馬具を今も掛け置く
ナキコエニ カドハカサレテ トヒシイエ カガヤクバグヲ イマモカケオク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.87
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (14)


01148
スキー服の少女もいつか歩み去り造花ひしめく今朝の飾窓
スキーフクノ オトメモイツカ アユミサリ ゾウカヒシメク ケサノウインドウ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.88
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (27)


01149
とりどりの腰紐などを垂れて売る店先過ぎて心騒がし
トリドリノ コシヒモナドヲ タレテウル ミセサキスギテ ココロサワガシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.88
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (28)


01150
古びたる黒のコートよかの日々もかなしみ深く坂を下りき
フルビタル クロノコートヨ カノヒビモ カナシミフカク サカヲクダリキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.88
【初出】 『形成』 1963.10 日常抄 (5)


01151
風触の石をかきわけ萌え出でてすでにこまかき葉をなすパセリ
フウショクノ イシヲカキワケ モエイデテ スデニコマカキ ハヲナスパセリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.89
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (23)


01152
歩き疲れて土間に卵を生み終へし鶏もいつか視野を去りゆく
アルキツカレテ ドマニタマゴヲ ウミオヘシ ニワトリモイツカ シヤヲサリユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.89
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (19)


01153
年々に聴きなれし竹の落ち葉なれ雨かと醒めし妹が問ふ
ネンネンニ キキナレシタケノ オチバナレ アメカトサメシ イモウトガトフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.89
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (24)