目次
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全短歌(歌集等)
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無数の耳
春の疾風
音もなく
篠懸の
こみあげし
人参を
貨車の戸の
見るとなく
横顔に
オリオンの
砂時計に
着て歩む
音を忍ぶ
01154
音もなくひろがる野火の遠景をバスの窓より見つつ過ぎゆく
オトモナク ヒロガルノビノ エンケイヲ バスノマドヨリ ミツツスギユク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.90
【初出】
『形成』 1963.5 早春抄 (1)
01155
篠懸の裸木めやすに曲りしが訪なふこころ未だ定まらぬ
スズカケノ ラボクメヤスニ マガリシガ オトナフココロ マダサダマラヌ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.90
【初出】
『形成』 1963.5 早春抄 (2)
01156
こみあげし笑ひのごとく立てし声グラスを置けばあとかたもなし
コミアゲシ ワラヒノゴトク タテシコエ グラスヲオケバ アトカタモナシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.91
【初出】
『形成』 1963.10 日常抄 (7)
01157
人参をちりばめしサラダ買ひ持ちてまた新しく悔ゆることあり
ニンジンヲ チリバメシサラダ カヒモチテ マタアタラシク クユルコトアリ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.91
【初出】
『形成』 1962.12 枯れ生 (1)
01158
貨車の戸の白墨の文字次々に読みゐしがなべて遠き町の名
カシャノトノ ハクボクノモジ ツギツギニ ヨミヰシガナベテ トオキマチノナ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.91
01159
見るとなくベンチの男を見てゐるに擦りてもすりてもマツチはつかぬ
ミルトナク ベンチノオトコヲ ミテヰルニ スリテモスリテモ マッチハツカヌ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.92
【初出】
『形成』 1962.11 夕かげ (2)
01160
横顔にイヤリング光りゐし記憶よみがへりつつかなしみを呼ぶ
ヨコガオニ イヤリングヒカリ ヰシキオク ヨミガヘリツツ カナシミヲヨブ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.92
【初出】
『形成』 1961.9 田園抄 (6)
01161
オリオンの位置もやうやく移ろふと春の疾風の夜々帰りゆく
オリオンノ イチモヤウヤク ウツロフト ハルノハヤテノ ヨヨカエリユク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.92
【初出】
『形成』 1963.5 早春抄 (5)
01162
砂時計に測られてゐし魔の刻か奪ひ去られて還らぬ言葉
スナドケイニ ハカラレテヰシ マノトキカ ウバヒサラレテ カエラヌコトバ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.93
【初出】
『形成』 1963.12 落葉季 (7)
01163
着て歩む日なく終らむ予感して裾の模様を中にし畳む
キテアユム ヒナクオワラム ヨカンシテ スソノモヨウヲ ナカニシタタム
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.93
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (29)
01164
音を忍ぶ夜の雨よかの石仏も苔の匂ひをまとひ始めむ
ネヲシノブ ヨノアメヨカノ セキブツモ コケノニオヒヲ マトヒハジメム
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.93
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (30)