春ふかむ


01165
角砂糖沈みゆくまのゆとりにて桐の花咲く野を恋ひゐたり
カクザトウ シズミユクマノ ユトリニテ キリノハナサク ノヲコヒヰタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.94
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (24)


01166
ミノルカの千羽飼ひゐし日を聞けど野はきららかに穂絮とびかふ
ミノルカノ センバカヒヰシ ヒヲキケド ノハキララカニ ホワタトビカフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.94
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (15)


01167
皺ぶかき顔に戻れり厩舎に馬ををさめて来し調教師
シワブカキ カオニモドレリ ウマゴヤニ ウマヲヲサメテ コシチョウキョウシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.95
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (26)


01168
蔓草にからまれ眠るなきがらのわれを谷間に置きて戻りつ
ツルクサニ カラマレネムル ナキガラノ ワレヲタニマニ オキテモドリツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.95
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (16)


01169
咲きたけし白藤の灯に揺れて見ゆこはれし鍵に釘を挿しおく
サキタケシ シラフジノヒニ ユレテミユ コハレシカギニ クギヲサシオク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.95
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (19)


01170
年々に針の目粗くなりゆくと危ふく裾を綴ぢ終りたり
ネンネンニ ハリノメアラク ナリユクト アヤフクスソヲ トヂオワリタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.96
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (20)


01171
どの巣箱に棲むとも知れぬ小緩鶏のをりをりに来て芝生を渡る
ドノスバコニ スムトモシレヌ コジュケイノ ヲリヲリニキテ シバフヲワタル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.96
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (30)


01172
濡らし来しコート吊りつつまた思ふ肩冷えてバスを待ちし夜ありき
ヌラシコシ コートツリツツ マタオモフ カタヒエテバスヲ マチシヨアリキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.96
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (29)


01173
仕事好きと見做さるる身を悔やまねど銀線草の花も過ぎゐる
シゴトズキト ミナサルルミヲ クヤマネド ヒトリシヅカノ ハナモスギヰル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.97
【初出】 『形成』 1963.7 雨衣 (25)


01174
錐揉みて分厚き帳簿綴ぢゆけり立ち直りゐる午後の心に
キリモミテ ブアツキチョウボ トヂユケリ タチナオリヰル ゴゴノココロニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.97
【初出】 『形成』 1963.10 日常抄 (1)


01175
去年の落ち葉今年の落ち葉積み溜めてそよぐともなく濡るる竹群
コゾノオチバ コトシノオチバ ツミタメテ ソヨグトモナク ヌルルタカムラ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.97
【初出】 『形成』 1963.10 日常抄 (2)


01176
ゆきずりに交はす言葉も潤ほふと花終へし木瓜の垣をめぐりつ
ユキズリニ カハスコトバモ ウルホフト ハナオヘシボケノ カキヲメグリツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.98
【初出】 『形成』 1964.6 「無題」 (1)


01177
蹄鉄を打ち替へてなほも追ふ騎士に追ひつめられつつ見てゐしテレビ
テイテツヲ ウチカヘテナホモ オフキシニ オヒツメラレツツ ミテヰシテレビ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.98
【初出】 『形成』 1962.5 春を呼ぶ (5)


01178
飲み余すジンの重たく輝けば浪費遂げ来し年月ながし
ノミアマス ジンノオモタク カガヤケバ ロウヒトゲコシ ネンゲツナガシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.98
【初出】 『形成』 1963.6 残冬抄 (3)