目次
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全短歌(歌集等)
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無数の耳
春寒
しあはせは
凩の
石切り場を
黒耀の
遠景に
行き暮れて
森の芯と
水に垂るる
生死さへ
畳屋が
東京へ
01192
しあはせは何とも定めがたき身に賜びし指環の黄玉やさし
シアハセハ ナニトモサダメ ガタキミニ タビシユビワノ トパーズヤサシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.104
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (26)
01193
凩のエチユードも弾きあへぬままピアノの向きを替ふる日は来ぬ
コガラシノ エチユードモヒキ アヘヌママ ピアノノムキヲ カフルヒハキヌ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.104
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (25)
01194
石切り場を西の斜面に持てる丘月さして遺跡のごとく鎮まる
イシキリバヲ ニシノシャメンニ モテルオカ ツキサシテイセキノ ゴトクシズマル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.105
【初出】
『律』 1962.6 訴人の貌 (10)
01195
黒耀の古代の鏃拾ひゆく野火の匂ひの残れる土に
コクヨウノ コダイノヤジリ ヒロヒユク ノビノニオヒノ ノコレルツチニ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.105
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (15)
01196
遠景に光りゐし沼かき消えて一掬ひほどの水がたゆたふ
エンケイニ ヒカリヰシヌマ カキキエテ ヒトスクヒホドノ ミズガタユタフ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.105
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (20)
01197
行き暮れて樹氷の森に明かしたる一夜眠らぬために歌ひき
ユキクレテ ジュヒョウノモリニ アカシタル ヒトヨネムラヌ タメニウタヒキ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.106
【初出】
『短歌』 1963.7 雨季のうた (27)
01198
森の芯とひそかに呼びて親しめる椋あり夜々の夢にそばだつ
モリノシント ヒソカニヨビテ シタシメル ムクアリヨヨノ ユメニソバダツ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.106
【初出】
『形成』 1963.3 パリの地図 (3)
01199
水に垂るる芽柳の枝森蔭を抜け来し視野にあかるく点る
ミズニタルル メヤナギノエダ モリカゲヲ ヌケコシシヤニ アカルクトモル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.106
【初出】
『形成』 1963.3 パリの地図 (4)
01200
生死さへ知らずに過ぎし年月か姑と呼びたるかの日も遠く
セイシサヘ シラズニスギシ トシツキカ ハハトヨビタル カノヒモトオク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.107
【初出】
『形成』 1963.3 パリの地図 (6)
01201
畳屋が針光らせてゐる路傍立ちどまり腕の喪章をはづす
タタミヤガ ハリヒカラセテ ヰルロボウ タチドマリウデノ モショウヲハヅス
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.107
【初出】
『形成』 1963.5 早春抄 (4)
01202
東京へ出でゆくことも稀にして雪を積み来し昼汽車に乗る
トウキョウヘ イデユクコトモ マレニシテ ユキヲツミコシ ヒルキシャニノル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.107
【初出】
『形成』 1963.3 パリの地図 (1)