水のほとり


01203
暖国を恋ひゐし日々のよみがへり拇指立ててむくザボンが匂ふ
ダンコクヲ コヒヰシヒビノ ヨミガヘリ ボシタテテムク ザボンガニオフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.108
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (26)


01204
傘二つひろげて待てば妹はピアノに鍵をかけて出で来ぬ
カサフタツ ヒロゲテマテバ イモウトハ ピアノニカギヲ カケテイデキヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.108
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (28)


01205
一枚のてのひらをもて蔽はむに溢れて思ふことも少なし
イチマイノ テノヒラヲモテ オオハムニ アフレテオモフ コトモスクナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.109
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (17)


01206
鉄骨の階ひびきあふ踊り場に海見しごときくるめきに会ふ
テッコツノ カイヒビキアフ オドリバニ ウミミシゴトキ クルメキニアフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.109
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (21)


01207
底ひよりよみがへる鐘の声を待ち夜々に弾く沈める寺のバラード
ソコヒヨリ ヨミガヘルカネノ コエヲマチ ヨヨニヒクシズメル テラノバラード

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.109
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (19)


01208
遠景に触覚のごときクレーン見え崩れし石の坂下りゆく
エンケイニ ショッカクノゴトキ クレーンミエ クズレシイシノ サカクダリユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.110
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (29)


01209
長雨の水を溜めゐむ濠のあとほろびし墳の木々青みたり
ナガアメノ ミズヲタメヰム ホリノアト ホロビシツカノ キギアオミタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.110
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (23)


01210
枕木の間隔を読むごとく来て蛇を剝きゐる少年に会ふ
マクラギノ カンカクヲヨム ゴトクキテ ヘビヲムキヰル ショウネンニアフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.110
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (24)


01211
いつの間に杉菜長けゐる水のほとりわが沈めたる斧も還るや
イツノマニ スギナタケヰル ミズノホトリ ワガシズメタル オノモカエルヤ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.111
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (11)


01212
荷台より足を垂らして児が乗れりきしみつつゆく野の牛ぐるま
ニダイヨリ アシヲタラシテ コガノレリ キシミツツユク ノノウシグルマ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.111
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (9)


01213
背伸びして妹の薔薇を覗くさまガラス透かして遠景に似つ
セノビシテ イモウトノバラヲ ノゾクサマ ガラススカシテ エンケイニニツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.111
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (22)