あふるる霧


01214
煽られし楽譜を拾ふ時の間にドビユツシイもわれは逃がしてしまふ
アオラレシ ガクフヲヒロフ トキノマニ ドビユツシイモワレハ ニガシテシマフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.112
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (13)


01215
葉の折れし葱買ひ持てばすべなきに橋の下まで霧あふれゐる
ハノオレシ ネギカヒモテバ スベナキニ ハシノシタマデ キリアフレヰル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.112
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (10)


01216
成らざりし謀略に似て埋もれゐる囮籠見つ落ち葉の森に
ナラザリシ ボウリャクニニテ ウモレヰル ヲトリカゴミツ オチバノモリニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.113


01217
夢に得て必死に握りゐしは何ばらばらに指を解きほぐしたり
ユメニエテ ヒッシニニギリ ヰシハナニ バラバラニユビヲ トキホグシタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.113
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (14)


01218
姿見に脱ぎし手袋映りゐて囀り倦まぬインコと思ふ
スガタミニ ヌギシテブクロ ウツリヰテ サエズリウマヌ インコトオモフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.113
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (15)


01219
燭の火を消したるあとに蠟匂ふ言ひそびれたる言葉のごとく
ショクノヒヲ ケシタルアトニ ロウニオフ イヒソビレタル コトバノゴトク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.114
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (25)


01220
丈長く切り来し菖蒲手向けつつ人に知られぬゆかりも過ぎぬ
タケナガク キリコシアヤメ タムケツツ ヒトニシラレヌ ユカリモスギヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.114
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (16)


01221
風鈴の舌ひるがへり音絶ゆる時の間ありて風の過ぎゆく
フウリンノ シタヒルガヘリ オトタユル トキノマアリテ カゼノスギユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.114
【初出】 『短歌』 1963.7 雨季のうた (18)