秋意


01233
誰の名を呼びしや野火に追はれゐる夢より醒めてくちびる渇く
タレノナヲ ヨビシヤノビニ オハレヰル ユメヨリサメテ クチビルカワク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.119


01234
次々に草矢を飛ばし追ひゆきて取り返したき語彙一つあり
ツギツギニ クサヤヲトバシ オヒユキテ トリカエシタキ ゴイヒトツアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.119


01235
いつのまに身を抜け出でし魚ならむくれなゐのさす尾鰭を揺りて
イツノマニ ミヲヌケイデシ ウオナラム クレナヰノサス オヒレヲユリテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.120


01236
生活にまみるるこころ果てなきに日々にほぐれて薔薇の花咲く
セイカツニ マミルルココロ ハテナキニ ヒビニホグレテ バラノハナサク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.120
【初出】 『形成』 1963.5 早春抄 (3)


01237
羽化の日の近づくごとき思ひしつ夕づく空に銀河を刷けば
ウカノヒノ チカヅクゴトキ オモヒシツ ユウヅクソラニ ギンガヲハケバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.120