坂の町


01259
さかしらを言ひ来し心寂しきに青き靄刷くゆふべの坂は
サカシラヲ イヒコシココロ サビシキニ アオキモヤハク ユフベノサカハ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.130
【初出】 『形成』 1964.6 「無題」 (6)


01260
ウインドウの花の飾りに灯がともりみな月代の青き男雛ら
ウインドウノ ハナノカザリニ ヒガトモリ ミナサカヤキノ アオキヲビナラ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.130
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (8)


01261
バス降りし闇に思へば若者は蛇象れる指環してゐき
バスオリシ ヤミニオモヘバ ワカモノハ ヘビカタドレル ユビワシテヰキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.131
【初出】 『短歌研究』 1964.5 季冬日々 (10)


01262
雪渓の祟り怖るるわれを措き発ちにき再び逢ふ日無かりき
セッケイノ タタリオソルル ワレヲオキ タチニキフタタビ アフヒナカリキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.131
【初出】 『形成』 1964.5 「無題」 (2)


01263
知るべ少なきこの坂の町遅くまで点してわれを待つ花屋あり
シルベスクナキ コノサカノマチ オソクマデ トモシテワレヲ マツハナヤアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.131
【初出】 『短歌研究』 1964.5 季冬日々 (11)


01264
北欧の木の実たづさへ訪ひ呉れき雪の夜に呼ぶ記憶の一つ
ホクオウノ コノミタヅサヘ トヒクレキ ユキノヨニヨブ キオクノヒトツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.132
【初出】 『短歌研究』 1964.5 季冬日々 (20)


01265
篝り火が雪の飛沫をはじく音まぼろしの城潰えし後も
カガリビガ ユキノヒマツヲ ハジクオト マボロシノシロ ツヒエシノチモ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.132
【初出】 『短歌研究』 1964.5 季冬日々 (21)


01266
森深くひそめる夢の醒めむとす風はブザーの音を呼びつつ
モリフカク ヒソメルユメノ サメムトス カゼハブザーノ オトヲヨビツツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.132
【初出】 『形成』 1964.5 「無題」 (1)