火種一粒


01275
靴の先光らせて出づる朝々にひひらぎの花散りはじめたり
クツノサキ ヒカラセテイヅル アサアサニ ヒヒラギノハナ チリハジメタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.136
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (1)


01276
洗ひたる髪凍らせて歩みしか雪国の夜の記憶も古りぬ
アラヒタル カミコオラセテ アユミシカ ユキグニノヨノ キオクモフリヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.136
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (2)


01277
坂道の反射に窓が明るめば間なく至らむゆふべの冷えは
サカミチノ ハンシャニマドガ アカルメバ マナクイタラム ユフベノヒエハ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.137
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (3)


01278
一粒の火種を未だ持つわれと夜もすがらなる風を聴きゐし
ヒトツブノ ヒダネヲイマダ モツワレト ヨモスガラナル カゼヲキキヰシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.137
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (4)


01279
除刑日に生きて再びめぐりあふかなしみに似て鍵束の音
ジョケイニチニ イキテフタタビ メグリアフ カナシミニニテ カギタバノオト

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.137
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (13)


01280
乾きゆく髪に残れるレモンの香何に萎へゐし心と思ふ
カワキユク カミニノコレル レモンノカ ナニニナヘヰシ ココロトオモフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.138
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (5)


01281
木鋏を鳴らして冬の枝を断つ芽ぐめる枝も容赦なく断つ
キバサミヲ ナラシテフユノ エダヲタツ メグメルエダモ ヨウシャナクタツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.138
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (6)


01282
編みものを教へて暮らす友の来てふくらかに編みし帽子呉れゆく
アミモノヲ オシヘテクラス トモノキテ フクラカニアミシ ボウシクレユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.138
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (9)