若き日


01291
耳飾りしてゐるわれの写真出づ若くして逸り易き日ありき
ミミカザリ シテヰルワレノ シャシンイヅ ワカクシテハヤリ ヤスキヒアリキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.142
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (10)


01292
ルージユもて咄嗟に書きし伝言の短かき文字を今に忘れず
ルージユモテ トッサニカキシ デンゴンノ ミジカキモジヲ イマニワスレズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.142
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (11)


01293
木の洞に斧蔵ひおくことも知りあけくれ森を抜けつつ通ふ
キノウロニ オノシマヒオク コトモシリ アケクレモリヲ ヌケツツカヨフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.143
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (24)


01294
明けやらぬ森を騒立てゐる猟者ひそみてあれよわが野鳩らは
アケヤラヌ モリヲサワダテ ヰルリョウシャ ヒソミテアレヨ ワガノバトラハ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.143
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (26)


01295
人形の髪の濡れゐる錯覚も過ぎてミモザの水替へに立つ
ニンギョウノ カミノヌレヰル サッカクモ スギテミモザノ ミズカヘニタツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.143
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (29)


01296
凹凸のはげしき岩も遠ざかる辰砂を溶きし絵皿洗へば
オウトツノ ハゲシキイワモ トオザカル シンサヲトキシ エザラアラヘバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.144
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (27)


01297
メタセコイヤの木蔭に棲むといふ知らせ死後の便りの如くはろけし
メタセコイヤノ コカゲニスムト イフシラセ シゴノタヨリノ ゴトクハロケシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.144
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (12)


01298
耳ぎはの髪が吹かれて目ざめたりそよぐ木の葉は何方ならむ
ミミギハノ カミガフカレテ メザメタリ ソヨグコノハハ イヅカタナラム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.144
【初出】 『短歌』 1964.3 野火の村 (30)