石も呻く


01299
ふり仰ぐ枯れ木に大き目があけば見抜かれてゐる業あるごとし
フリアオグ カレキニオオキ メガアケバ ミヌカレテヰル ゴフアルゴトシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.145
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (12)


01300
仕上らぬコート幾日も壁に吊り怠りを知らぬ齢も過ぎぬ
シアガラヌ コートイクヒモ カベニツリ オコタリヲシラヌ ヨハヒモスギヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.145
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (14)


01301
執拗に片目盲ひし農婦など描きゐたりしそれより訪はず
シツヨウニ カタメメシヒシ ノウフナド エガキヰタリシ ソレヨリトハズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.146
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (10)


01302
石などに似て来しわれと思はねど石も呻くと聞けば歎かゆ
イシナドニ ニテコシワレト オモハネド イシモウメクト キケバナゲカユ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.146
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (16)


01303
移り来し日より再び消し炭を壺に貯めつつ炊ぐ妹
ウツリコシ ヒヨリフタタビ ケシズミヲ ツボニタメツツ カシグイモウト

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.146
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (22)


01304
紅絹縫へば痛む指先折れ易き針のことなどかなしみ尽きず
モミヌヘバ イタムユビサキ オレヤスキ ハリノコトナド カナシミツキズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.147
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (23)


01305
閉ぢし目に木々の高さを測りゐつ風立ち来れば共にゆれつつ
トヂシメニ キギノタカサヲ ハカリヰツ カゼタチクレバ トモニユレツツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.147
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (9)


01306
地に届くばかりの氷柱冴ゆるとふ帰り住めとは言ひ来ずなりぬ
チニトドク バカリノツララ サユルトフ カエリスメトハ イヒコズナリヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.147
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (25)


01307
合歓の木の小さき種子を送り来ぬ相見にし花忘れずにゐて
ネムノキノ チサキシュシヲ オクリキヌ アイミニシハナ ワスレズニヰテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.148
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (15)


01308
縁の欠けし皿のコキール食み余し乗りつぎゆかむ枯れ野のバスに
フチノカケシ サラノコキール ハミアマシ ノリツギユカム カレノノバスニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.148
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (28)


01309
身の振りに迷ふならねど帰り来てたたむシヨールは毛の匂ひ持つ
ミノフリニ マヨフナラネド カエリキテ タタムシヨールハ ケノニオヒモツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.148
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (21)