象なき岩


01321
野火に追はれしたかぶりもいつか醒めゆきて踏みしだかれし十薬匂ふ
ノビニオハレシ タカブリモイツカ サメユキテ フミシダカレシ ドクダミニオフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.153
【初出】 『彩』 1965.6 かたちなき岩 (1)


01322
音立てて土にくづほれたき日なりみだらに紅葉して立つ木あり
オトタテテ ツチニクヅホレ タキヒナリ ミダラニモミヂ シテタツキアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.153
【初出】 『彩』 1965.6 かたちなき岩 (2)


01323
枯れ芦の上を近づく風の音沼のおもてはいまだしづけし
カレアシノ ウエヲチカヅク カゼノオト ヌマノオモテハ イマダシヅケシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.154
【初出】 『彩』 1965.6 水明かり (5)


01324
いつの日に入れしままなる指貫か雨衣のかくしより出づ
イツノヒニ イレシママナル ユビヌキカ レインコートノ カクシヨリイヅ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.154
【初出】 『形成』 1964.6 「無題」 (4)


01325
とめどなく流るる涙わが膝にまつはる犬は耳やはらかし
トメドナク ナガルルナミダ ワガヒザニ マツハルイヌハ ミミヤハラカシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.154
【初出】 『彩』 1965.6 かたちなき岩 (5)


01326
うらがへりまた裏返る海月のむれ藻となりてわれの漂ひゆけば
ウラガヘリ マタウラガエル クラゲノムレ モトナリテワレノ タダヨヒユケバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.155
【初出】 『彩』 1965.6 かたちなき岩 (7)


01327
象なき岩が夜毎に現れて水のゆくへを塞がむとする
カタチナキ イワガヨゴトニ アラワレテ ミズノユクヘヲ フサガムトスル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.155
【初出】 『彩』 1965.6 かたちなき岩 (8)


01328
一摑みの籾あらば生命ひらかれむ目ざめに思ふこともつたなし
ヒトツカミノ モミアラバイノチ ヒラカレム メザメニオモフ コトモツタナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.155
【初出】 『彩』 1965.6 かたちなき岩 (9)