形代


01329
みなもとをさして上れといふごとき流れに浮かぶ形代もなし
ミナモトヲ サシテノボレト イフゴトキ ナガレニウカブ カタシロモナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.156
【初出】 『彩』 1965.6 形代 (2)


01330
流木を寄せつつ筏組める夢ガンジス越えて何処へか行く
リュウボクヲ ヨセツツイカダ クメルユメ ガンジスコエテ イヅクヘカユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.156
【初出】 『彩』 1965.6 形代 (3)


01331
わが館めぐりてゐしが目ざむれば蹄の音は遠ざかりゆく
ワガヤカタ メグリテヰシガ メザムレバ ヒズメノオトハ トオザカリユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.157
【初出】 『彩』 1965.6 形代 (4)


01332
何の木と知らずに過ぎし年月かこまかき落ち葉踏みつつかよふ
ナンノキト シラズニスギシ トシツキカ コマカキオチバ フミツツカヨフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.157
【初出】 『彩』 1965.6 形代 (6)


01333
巣を高く張り替へてゐる蜘蛛に会ふ漂ふごとくありたき時に
スヲタカク ハリカヘテヰル クモニアフ タダヨフゴトク アリタキトキニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.157
【初出】 『形成』 1964.7 「無題」 (5)


01334
一粒の真珠もらひて久しきを思ひゆくりなく心うるほふ
ヒトツブノ シンジュモラヒテ ヒサシキヲ オモヒユクリナク ココロウルホフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.158
【初出】 『彩』 1965.6 形代 (11)


01335
凪ぎ深き沼の曇りに倦むごとくしきりに潜く白鳥のかげ
ナギフカキ ヌマノクモリニ ウムゴトク シキリニカヅク ハクチョウノカゲ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.158
【初出】 『彩』 1965.6 冬の枝 (6)


01336
製材の音も歯ぐきにくひこむとよりどころなく臥す一日あり
セイザイノ オトモハグキニ クヒコムト ヨリドコロナク フスヒトヒアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.158
【初出】 『彩』 1965.6 冬の枝 (5)