とばり


01345
紫いろの切手を貼れる手紙来て陥れむとするにあらずや
ムラサキイロノ キッテヲハレル テガミキテ オトシイレムト スルニアラズヤ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.162
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (1)


01346
てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれ来る
テノヒラヲ クボメテマテバ アオゾラノ ミエヌキズヨリ ハナコボレクル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.162
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (2)


01347
青胡桃の匂ふひとつを手にのせて囚はれやすきこころも寂し
アオクルミノ ニオフヒトツヲ テニノセテ トラハレヤスキ ココロモサビシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.163
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (4)


01348
胸板の厚き奴隷も息絶えて画廊出づれば夜の人通り
ムナイタノ アツキドレイモ イキタエテ ガロウイヅレバ ヨノヒトドオリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.163
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (5)


01349
迷ひ犬か何かのやうにゐるわれか人は行き交ふ鎖を曳きて
マヨヒイヌカ ナニカノヤウニ ヰルワレカ ヒトハユキカフ クサリヲヒキテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.163
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (6)


01350
裸足にて歩む痛みと思ふ夜も尖塔は十字のネオンをともす
ハダシニテ アユムイタミト オモフヨモ セントウハジュウジノ ネオンヲトモス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.164
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (7)


01351
をりをりに黒光りして現るるいつの日かわれを吊るすべき鈎
ヲリヲリニ クロビカリシテ アラハルル イツノヒカワレヲ ツルスベキカギ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.164
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (8)


01352
さまざまの帳がありてめぐりあはぬ一生と思ひながく眠らず
サマザマノ トバリガアリテ メグリアハヌ ヒトヨトオモヒ ナガクネムラズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.164
【初出】 『彩』 1965.6 とばり (9)