雪のしづく


01364
桟橋の先までゆきて帰り来ぬかの夜の雪が肩にはららぐ
サンバシノ サキマデユキテ カエリキヌ カノヨノユキガ カタニハララグ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.169
【初出】 『彩』 1965.6 雪の章 (1)


01365
喪の羽織肩より脱ぎて坐りたり午後の仕事がわれを待ちゐむ
モノハオリ カタヨリヌギテ スワリタリ ゴゴノシゴトガ ワレヲマチヰム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.169
【初出】 『彩』 1965.6 雪の章 (4)


01366
うつし世の最後の逢ひと思ふ日に人は喚きつわれを詰りて
ウツシヨノ サイゴノアヒト オモフヒニ ヒトハワメキツ ワレヲナジリテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.170


01367
ぬるき湯の流るるに似し会話にて剝製の雉子置ける棚見ゆ
ヌルキユノ ナガルルニニシ カイワニテ ハクセイノキジ オケルタナミユ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.170
【初出】 『彩』 1965.6 潮鳴り (10)


01368
貰ひたる名刺のよごれゐしことも私和遂げし夜の疼きを誘ふ
モラヒタル メイシノヨゴレ ヰシコトモ シワトゲシヨノ ウヅキヲサソフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.170
【初出】 『彩』 1965.6 潮鳴り (11)


01369
変へてゆく生き方などは思はねど草に溶けつつ淡雪の降る
カヘテユク イキカタナドハ オモハネド クサニトケツツ アワユキノフル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.171
【初出】 『彩』 1965.6 雪の章 (3)


01370
馬鈴薯を食ぶる家族を描きしゴツホ笑ひころげて行く少女たち
バレイショウヲ タブルカゾクヲ エガキシゴツホ ワラヒコロゲテ ユクオトメタチ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.171
【初出】 『彩』 1965.6 雪の章 (5)


01371
いかならむ賭けに敗れて来し夜か雪のしづくの光る片袖
イカナラム カケニヤブレテ コシヨルカ ユキノシヅクノ ヒカルカタソデ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.171
【初出】 『彩』 1965.6 雪の章 (8)