おもかげ


01393
おもかげの老いてつきとめ得ぬままに大き楽器を負ひて去りたり
オモカゲノ オイテツキトメ エヌママニ オオキガッキヲ オヒテサリタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.180
【初出】 『形成』 1964.4 「無題」 (1)


01394
傷口にしきりに蠅の寄るごとき何の夢見てうとみゐたりし
キズグチニ シキリニハエノ ヨルゴトキ ナンノユメミテ ウトミヰタリシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.180
【初出】 『形成』 1964.4 「無題」 (3)


01395
目ざむれば蹼失せて繃帯を巻ける右手が投げ出されゐつ
メザムレバ ミヅカキウセテ ホウタイヲ マケルミギテガ ナゲダサレヰツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.181
【初出】 『形成』 1964.4 「無題」 (4)


01396
糖蜜を煮詰めて雪の日をこもり母ありし日のごとガラス曇らす
トウミツヲ ニツメテユキノ ヒヲコモリ ハハアリシヒノゴト ガラスクモラス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.181
【初出】 『形成』 1964.4 「無題」 (5)


01397
ゆくりなく視界ひらけて枯れ原に夜すがら点す鶏舎幾棟
ユクリナク シカイヒラケテ カレハラニ ヨスガラトモス ケイシャイクムネ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.181
【初出】 『形成』 1964.4 「無題」 (7)