秋ふかく


01398
不知火の夜の近づくを告げて来て君も寂しき過去を持つ
シラヌヒノ ヨノチカヅクヲ ツゲテキテ キミモサビシキ スギユキヲモツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.182
【初出】 『彩』 1965.6 濡れし落ち葉 (1)


01399
選ばれて化石となるといふ言葉濡れし落ち葉を掃きつつ思ふ
エラバレテ カセキトナルト イフコトバ ヌレシオチバヲ ハキツツオモフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.182
【初出】 『彩』 1965.6 濡れし落ち葉 (3)


01400
風落ちしゆふべとなりて行く水は浅瀬の音を立て始めたり
カゼオチシ ユフベトナリテ ユクミズハ アサセノオトヲ タテハジメタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.183
【初出】 『彩』 1965.6 濡れし落ち葉 (4)


01401
幾たびか夜霧の原に出でて呼ぶ放れし仔犬呼ぶごとくして
イクタビカ ヨギリノハラニ イデテヨブ ハナレシコイヌ ヨブゴトクシテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.183
【初出】 『形成』 1964.4 「無題」 (2)


01402
死後の火を畏れゐし母水晶の念珠ばかりが地下に残らむ
シゴノヒヲ オソレヰシハハ スイショウノ ネンジュバカリガ チカニノコラム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.183
【初出】 『彩』 1965.6 濡れし落ち葉 (7)


01403
ひび入りて伏せおく大き甕ひとつみどり児の声漏るる夜無きか
ヒビイリテ フセオクオオキ カメヒトツ ミドリゴノコエ モルルヨナキカ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.184
【初出】 『彩』 1965.6 濡れし落ち葉 (8)


01404
つぎつぎに生み続けたる蛾のむれのはばたく音にまみれて眠る
ツギツギニ ウミツヅケタル ガノムレノ ハバタクオトニ マミレテネムル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.184
【初出】 『彩』 1965.6 濡れし落ち葉 (9)


01405
さすらひの心朝よりきざしゐて枯れ木を踏めば音のはろけさ
サスラヒノ ココロアサヨリ キザシヰテ カレキヲフメバ オトノハロケサ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.184
【初出】 『形成』 1964.6 「無題」 (3)