くもる鏡


01406
散り透きて節めだつ木々遠ざかる足音ばかりわれは聴きゐる
チリスキテ フシメダツキギ トオザカル アシオトバカリ ワレハキキヰル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.186
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (1)


01407
かたまれる砂利をほぐして道ばたにひとりの音をたてゐる工夫
カタマレル ジャリヲホグシテ ミチバタニ ヒトリノオトヲ タテヰルコウフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.186
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (2)


01408
移り来し家に残れる古きベンチそのまま置きて子犬をつなぐ
ウツリコシ イエニノコレル フルキベンチ ソノママオキテ コイヌヲツナグ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.187
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (5)


01409
癒えかけて引き返す感冒うとましく曇る鏡を幾たびも拭く
イエカケテ ヒキカエスカゼ ウトマシク クモルカガミヲ イクタビモフク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.187
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (12)


01410
回転椅子の高さ戻して坐りたり夜の間に誰の掛けゐしならむ
カイテンイスノ タカサモドシテ スワリタリ ヨノマニタレノ カケヰシナラム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.187
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (14)


01411
声高に話しつつ来る男同志自転車のライトゆれて近づく
コワダカニ ハナシツツクル オトコドウシ ジテンシャノライト ユレテチカヅク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.188
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (48)


01412
街灯の下を過ぎつつ振り向けば背後も寒き雨降りてゐる
ガイトウノ シタヲスギツツ フリムケバ ハイゴモサムキ アメフリテヰル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.188
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (49)


01413
穿たるるままに眠らむ額深くしたたりやまぬ雨だれの音
ウガタルル ママニネムラム ヌカフカク シタタリヤマヌ アマダレノオト

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.188
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (50)