大角の笛


01422
濡らし来し足裏熱ばみ眠らむに雪の夜更けて通る人あり
ヌラシコシ アウラネツバミ ネムラムニ ユキノヨフケテ トオルヒトアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.192


01423
何者の棲みつきてより蓴菜も菱も絶えたるふるさとの沼
ナニモノノ スミツキテヨリ ジュンサイモ ヒシモタエタル フルサトノヌマ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.192


01424
魔の谷のごとき夜更けの切通し火の粉散らして機関車は過ぐ
マノタニノ ゴトキヨフケノ キリドホシ ヒノコチラシテ キカンシャハスグ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.193


01425
古りし世の大角の笛の音雪の夜は聞こゆるといふ山かひの里
フリシヨノ ハラノフエノネ ユキノヨハ キコユルトイフ ヤマカヒノサト

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.193


01426
吹き降りとなりし日暮れに立ち出づる乾かぬ靴をそのまま履きて
フキブリト ナリシヒグレニ タチイヅル カワカヌクツヲ ソノママハキテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.193


01427
雪原に軍馬の碑見しかなしみのよみがへりつつ夜汽車にゐたり
ユキハラニ グンバノヒミシ カナシミノ ヨミガヘリツツ ヨギシャニヰタリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.194


01428
たはむれに銃先をわれに向けたりき不吉の予感ながく残りき
タハムレニ ツツサキヲワレニ ムケタリキ フキツノヨカン ナガクノコリキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.194


01429
氷塊の溶けてしたたりゐし記憶眠られぬ夜は死者のみ思ふ
ヒョウカイノ トケテシタタリ ヰシキオク ネムラレヌヨハ シシャノミオモフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.194