目次
/
全短歌(歌集等)
/
無数の耳
霜割れの森
亡き父の
ワイヤーを
唇の
透明の
あざやかな
何のせても
肘を張り
霜割れの
北風の
薬局の
鳥籠の
01454
亡き父の在りし日を知るただ一人老いたる記者も再びは来ず
ナキチチノ アリシヒヲシル タダヒトリ オイタルキシャモ フタタビハコズ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.204
【初出】
『形成』 1965.8 「無題」 (7)
01455
ワイヤーをひきずる如き音せしが何事もなく雨降り出でぬ
ワイヤーヲ ヒキズルゴトキ オトセシガ ナニゴトモナク アメフリイデヌ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.204
【初出】
『形成』 1965.1 「無題」 (6)
01456
唇の厚き女としてゑがく画家をうとめる思ひの去らず
クチビルノ アツキオンナト シテヱガク ガカヲウトメル オモヒノサラズ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.205
【初出】
『形成』 1965.11 「無題」 (4)
01457
透明の小箱かさねて卵売れりどこを向きても溝臭ふ街
トウメイノ コバコカサネテ タマゴウレリ ドコヲムキテモ ミゾニオフマチ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.205
【初出】
『形成』 1965.11 「無題」 (5)
01458
あざやかな斑を持つ蝶を見し夢も旅ゆくわれの不安を誘ふ
アザヤカナ フヲモツチョウヲ ミシユメモ タビユクワレノ フアンヲサソフ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.205
【初出】
『形成』 1965.11 「無題」 (6)
01459
何のせても同じ目盛りを指す秤今の間に測りておく物なきや
ナニノセテモ オナジメモリヲ サスハカリ イマノマニハカリテ オクモノナキヤ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.206
【初出】
『形成』 1965.1 「無題」 (5)
01460
肘を張り毛糸編む癖亡き母に似て夜の部屋のガラスに映る
ヒジヲハリ ケイトアムクセ ナキハハニ ニテヨノヘヤノ ガラスニウツル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.206
【初出】
『形成』 1965.1 「無題」 (7)
01461
霜割れの音ひびく森石人の台座のめぐり落ち葉は深し
シモワレノ オトヒビクモリ セキジンノ ダイザノメグリ オチバハフカシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.206
【初出】
『形成』 1965.4 「無題」 (1)
01462
北風の夜は聞こえて来る喇叭遠き兵舎も灯を消すならむ
キタカゼノ ヨルハキコエテ クルラッパ トオキヘイシャモ ヒヲケスナラム
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.207
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (25)
01463
薬局の明るくともる前過ぎて夜霧の奥へ去る人のこゑ
ヤッキョクノ アカルクトモル マエスギテ ヨギリノオクヘ サルヒトノコヱ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.207
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (27)
01464
鳥籠の巣藁に雪のたまりゐて遠き旅より戻れるごとし
トリカゴノ スワラニユキノ タマリヰテ トオキタビヨリ モドレルゴトシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.207
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (24)