海の記憶


01473
石の上にこぼせしタール時を経てとりとめのなき象に乾く
イシノウエニ コボセシタール トキヲヘテ トリトメノナキ カタチニカワク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.211
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (15)


01474
おのづから色素の沈みゆくごとき思ひ味はふ別離の日より
オノヅカラ シキソノシズミ ユクゴトキ オモヒアジハフ ベツリノヒヨリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.211
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (16)


01475
ものの影なべてはためき過ぎ行けり防音ガラスの壁をすかして
モノノカゲ ナベテハタメキ スギユケリ ボウオンガラスノ カベヲスカシテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.212
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (17)


01476
道ばたに杭立ち並び何事か証しのほしきわれと思ひつ
ミチバタニ クヒタチナラビ ナニゴトカ アカシノホシキ ワレトオモヒツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.212
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (19)


01477
赤松の水際の一木倒れゐて過ぎゆくわれに匂ふ松の根
アカマツノ ミギハノヒトキ タオレヰテ スギユクワレニ ニオフマツノネ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.212
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (22)


01478
著莪の花沼をふちどり咲ける日の記憶たどりて枯れ野を渡る
シャガノハナ ヌマヲフチドリ サケルヒノ キオクタドリテ カレノヲワタル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.213
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (20)


01479
遠景に埃ひろがり砕石を敷き均らす音しばらく聞こゆ
エンケイニ ホコリヒロガリ サイセキヲ シキナラスオト シバラクキコユ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.213
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (21)


01480
交はし来し言葉は褪せて砂時計の砂の赤かりしことのみ思ふ
カハシコシ コトバハアセテ スナドケイノ スナノアカカリシ コトノミオモフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.213
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (18)


01481
まばらなる灯を置く枯れ野東京の方角と思ふ空のあかるむ
マバラナル ヒヲオクカレノ トウキョウノ ホウガクトオモフ ソラノアカルム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.214
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (26)


01482
靴音を先立てて歩む夜の道木々の明りはいづこより来る
クツオトヲ サキタテテアユム ヨルノミチ キギノアカリハ イヅコヨリクル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.214
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (28)


01483
眼裏にガラスの破片敷き詰めし海あり人は還ることなし
マナウラニ ガラスノハヘン シキツメシ ウミアリヒトハ カエルコトナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.214
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (23)