実生の苗木


01484
方角をもたぬ砂丘のさみしさにただ海の方へ人はいざなふ
ホウガクヲ モタヌサキュウノ サミシサニ タダウミノカタヘ ヒトハイザナフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.215
【初出】 『形成』 1965.8 「無題」 (1)


01485
現実のたれに似るとも思へねど悪運つよき相を持つ鬼
ゲンジツノ タレニニルトモ オモヘネド アクウンツヨキ ソウヲモツオニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.215
【初出】 『形成』 1965.6 「無題」 (5)


01486
砂山を越え来し思ひはろけきにアカシアの花錆びて吹かるる
スナヤマヲ コエコシオモヒ ハロケキニ アカシアノハナ サビテフカルル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.216
【初出】 『形成』 1965.8 「無題」 (2)


01487
ひとしきり猛りて落ちし野火を見つ夜の思ひの凪ぐこともなく
ヒトシキリ タケリテオチシ ノビヲミツ ヨルノオモヒノ ナグコトモナク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.216
【初出】 『形成』 1965.6 「無題」 (6)


01488
物語の中の少女に言はしめし台詞にいつかわれも傷つく
モノガタリノ ナカノオトメニ イハシメシ セリフニイツカ ワレモキズツク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.216
【初出】 『形成』 1965.8 「無題」 (4)


01489
噴水の伸び縮みしてきりもなし立ち去りがたき今のこころに
フンスイノ ノビチヂミシテ キリモナシ タチサリガタキ イマノココロニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.217
【初出】 『形成』 1965.5 「無題」 (1)


01490
急行を待ちゐる長き停車にて車内の人らさまざまにうごく
キュウコウヲ マチヰルナガキ テイシャニテ シャナイノヒトラ サマザマニウゴク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.217
【初出】 『形成』 1965.5 「無題」 (3)


01491
枯れ葦のすきまに水の光るのみ舞ひ降りて来る白鳥もなし
カレアシノ スキマニミズノ ヒカルノミ マヒオリテクル ハクチョウモナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.217
【初出】 『形成』 1965.5 「無題」 (4)


01492
首垂れて洗はれてゐる仔馬あり何に寂しきわれの心か
クビタレテ アラハレテヰル コウマアリ ナンニサビシキ ワレノココロカ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.218
【初出】 『形成』 1965.8 「無題」 (6)


01493
白樺の実生の苗木届きたりまだ雪消えぬ甲斐の国より
シラカバノ ミショウノナエギ トドキタリ マダユキキエヌ カイノクニヨリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.218
【初出】 『形成』 1965.8 「無題」 (5)


01494
木の芽あへ食む夜は思ふふるさとを捨てにし父母のながきかなしみ
コノメアヘ ハムヨハオモフ フルサトヲ ステニシフボノ ナガキカナシミ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.218
【初出】 『形成』 1965.6 「無題」 (2)