見知らぬ街


01495
雨あとの靄たつ坂をのぼりゆく芯まで濡れし翼を負ひて
アメアトノ モヤタツサカヲ ノボリユク シンマデヌレシ ツバサヲオヒテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.219
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (1)


01496
堤防の裏も表も焼かれゐて橋を渡れば寒き櫓田
テイボウノ ウラモオモテモ ヤカレヰテ ハシヲワタレバ サムキヒツヂタ゛

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.219
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (2)


01497
涙噴くばかりに翳るゆふべあり壁に貼りおくルオーのピエロ
ナミダフク バカリニカゲル ユフベアリ カベニハリオク ルオーノピエロ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.220
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (4)


01498
眼先を離れずにゐる蛾の一つ気にすればまた限りなく舞ふ
マナサキヲ ハナレズニヰル ガノヒトツ キニスレバマタ カギリナクマフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.220
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (5)


01499
来む世には稗などに生れ変らむかよしなきことを思ひて眠る
コムヨニハ ヒエナドニウマレ カワラムカ ヨシナキコトヲ オモヒテネムル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.220
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (6)


01500
絨氈にペルシヤの壺の織られゐて人は踏みゆくそのふくらみを
ジュウタンニ ペルシヤノツボノ オラレヰテ ヒトハフミユク ソノフクラミヲ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.221
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (7)


01501
探りあふ心かたみに寂しきにデザートの皿も運び去られぬ
サグリアフ ココロカタミニ サビシキニ デザートノサラモ ハコビサラレヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.221
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (8)


01502
みづからを錘となして沈みゆく夜々に藻草のまつはりやまず
ミヅカラヲ オモリトナシテ シズミユク ヨヨニモグサノ マツハリヤマズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.221
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (29)


01503
策もなく歩む道ばた濡らされし砥石のおもてなめらかに照る
サクモナク アユムミチバタ ヌラサレシ トイシノオモテ ナメラカニテル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.222
【初出】 『形成』 1965.2 「無題」 (2)


01504
体重をかけて積み荷を括りゐつ汗拭く見れば少年の顔
タイジュウヲ カケテツミニヲ ククリヰツ アセフクミレバ ショウネンノカオ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.222
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (19)


01505
リヤカーを傾けて菊の花売れり見知らぬ街の不意に賑はふ
リヤカーヲ カタムケテキクノ ハナウレリ ミシラヌマチノ フイニニギハフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.222
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (30)