野菜車


01506
底冷えのしるきゆふぐれ膝に置く鋏の鈴の短かく鳴りぬ
ソコビエノ シルキユフグレ ヒザニオク ハサミノスズノ ミジカクナリヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.223
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (7)


01507
長き時間たちたるごとし焚き火しつつ妹がうたふ菩提樹の歌
ナガキジカン タチタルゴトシ タキビシツツ イモウトガウタフ ボダイジュノウタ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.223
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (6)


01508
訳もなく呆くる日ありわが立てる岸辺へ波の寄せやまずして
ワケモナク ホホクルヒアリ ワガタテル キシベヘナミノ ヨセヤマズシテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.224
【初出】 『形成』 1965.2 「無題」 (6)


01509
亡き母は混りてゐずや坂下の野菜車を人らのかこむ
ナキハハハ マジリテヰズヤ サカシタノ ヤサイグルマヲ ヒトラノカコム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.224
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (8)


01510
薔薇いろの雲を見し日もまどろめば活字の渦は騒然と湧く
バライロノ クモヲミシヒモ マドロメバ カツジノウズハ ソウゼントワク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.224
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (9)


01511
流氷を縫ひて危ふき帆船にゆられゐたりし時の間の夢
リュウヒョウヲ ヌヒテアヤフキ ハンセンニ ユラレヰタリシ トキノマノユメ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.225


01512
水鳥のむれ去りてよりあけくれに予感鋭く光る沼あり
ミズドリノ ムレサリテヨリ アケクレニ ヨカンスルドク ヒカルヌマアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.225
【初出】 『形成』 1965.2 「無題」 (4)


01513
枯れ原にひそみて木瓜の花咲ける道なりしかど往きて還らず
カレハラニ ヒソミテボケノ ハナサケル ミチナリシカド ユキテカエラズ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.225


01514
眠りより醒めむとしつつ息苦し白の手袋義手に嵌めゐき
ネムリヨリ サメムトシツツ イキグルシ シロノテブクロ ギシュニハメヰキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.226
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (10)


01515
探さねばならぬ書類あり膝寒く朝の髪よりピンを抜きつつ
サガサネバ ナラヌショルイアリ ヒザサムク アサノカミヨリ ピンヲヌキツツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.226
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (11)


01516
朝夕に通ひ慣れつつ草枯れて土管の口のあらはれし道
アサユウニ カヨヒナレツツ クサカレテ ドカンノクチノ アラハレシミチ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.226
【初出】 『短歌研究』 1965.5 海の記憶 (13)