よぎりゆく音


01517
いらだちを伝ふるピアノはたと止み時雨の音の降り過ぎてゆく
イラダチヲ ツタフルピアノ ハタトヤミ シグレノオトノ フリスギテユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.227
【初出】 『短歌研究』 1965.1 見知らぬ街 (3)


01518
だしぬけにわが名呼ばれて銀漢の一粒づつを見よといざなふ
ダシヌケニ ワガナヨバレテ ギンカンノ ヒトツブヅツヲ ミヨトイザナフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.227


01519
ビーカーに一輪挿してありし薔薇科学の信じがたき日無きか
ビーカーニ イチリンサシテ アリシバラ カガクノシンジ ガタキヒナキカ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.228


01520
洗ひたる小皿を棚にかさねゐてとりとめのなき不安はきざす
アラヒタル コザラヲタナニ カサネヰテ トリトメノナキ フアンハキザス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.228


01521
昼となく夜となくわれをよぎりゆく爆音はあり次第に繁し
ヒルトナク ヨトナクワレヲ ヨギリユク バクオンハアリ シダイニシゲシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.228