目次
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全短歌(歌集等)
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無数の耳
森の絵
踏まれゐし
ひらひらと
森の絵を
すりおろす
表情の
魔法瓶の
ゆるやかに
きららかに
01532
踏まれゐし黄のクレパスを掃き寄せて落ち葉焚く日のしばらく匂ふ
フマレヰシ キノクレパスヲ ハキヨセテ オチバタクヒノ シバラクニオフ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.233
01533
ひらひらと魚などの飛ぶ気配して窓より見ゆるつぎはぎの街
ヒラヒラト ウヲナドノトブ ケハイシテ マドヨリミユル ツギハギノマチ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.233
01534
森の絵を見せられし遠き日を思ひ遺作展の記事切り抜きておく
モリノエヲ ミセラレシトオキ ヒヲオモヒ イサクテンノキジ キリヌキテオク
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.234
01535
すりおろす林檎は忽ち錆びてゆきかすかに虫の飛ぶ音がする
スリオロス リンゴハタチマチ サビテユキ カスカニムシノ トブオトガスル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.234
01536
表情のとぼけし熊の縫ひぐるみ不思議にいつもみどり児はゐず
ヒョウジョウノ トボケシクマノ ヌヒグルミ フシギニイツモ ミドリゴハヰズ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.234
01537
魔法瓶の中にも雨の音溢れ次第に街の音とかさなる
マホウビンノ ナカニモアメノ オトアフレ シダイニマチノ オトトカサナル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.235
01538
ゆるやかに向きを変へゐる足跡の一つ一つがこゑ持つごとし
ユルヤカニ ムキヲカヘヰル アシアトノ ヒトツヒトツガ コヱモツゴトシ
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.235
01539
きららかについばむ鳥の去りしあと長くかかりて水はしづまる
キララカニ ツイバムトリノ サリシアト ナガクカカリテ ミズハシヅマル
『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.235
【初出】
『埼玉風景』 1974.1 森の絵 (1)